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SS5【ハロウィンパーティー(中篇)】

 ハロウィンパーティー当日。裕也は大量の衣装を持ってやってきた。  雪夜と夏樹の分だけではなく、兄さん連中の分も裕也が用意したらしい。 「さてと、最初はやっぱり雪ちゃんだよね!じゃあ、野郎どもは各自パーティーの準備にとりかかれぇ~!その間に僕が雪ちゃんを着替えさせてくるね~!」  裕也がノリノリで適当な指示を出し、雪夜の背中を押しながら寝室へと向かう。   「ちょ、待っ……裕也さん!雪夜の着替えなら俺が……っ」  夏樹は慌てて裕也を止めようとしたが「なっちゃんは料理担当でしょ?」と、笑顔で寝室の扉を閉められてしまった。 「えぇ~~……」 「はいはい、ナツはこっち!でっかいかぼちゃをくり抜かせてやるよ!」  寝室の前で茫然と立ち尽くしていた夏樹は、斎に襟首を掴まれてキッチンへと強制連行された。  キッチンには大玉のスイカよりも大きなかぼちゃがゴロゴロ転がっていた。  料理作るのはいいけど、雪夜の着替えは俺がしたかったな~…… 「ハァ~~~……」  かぼちゃを抱えて大きなため息をつくと、斎がガシッと肩を組んで来た。 「え?力が有り余ってるって?仕方ねぇな~、俺も一緒にくり抜こうと思ってたけど、ここはお前に全部譲って……」 「ぅわぁ~い!俺、斎さんと一緒にくり抜きたいな~!!――」  この量をひとりで全部くり抜くのは疲れるからイヤです!! ***  夏樹が斎お兄様のご機嫌を損ねないように、お口チャックでひたすらかぼちゃの中身をくり抜いていると、寝室から雪夜の声が聞こえてきた。 「な~ちゅしゃ~ん、もぉ~いいかぁ~い!?」  ん?え~と、これは着替えが済んだってことかな?    夏樹はパッと斎の顔を見た。 「あ~もう、いちいちこっち見んな!ほら、行ってこい」  斎が苦笑しながら夏樹に向かってシッシッと手で追い払う仕草をする。  その時にはもう夏樹は手を洗ってエプロンを外していた。  慌てて寝室の前でカメラを構える。 「は~い!もういいよ~!」  裕也が用意してくれた衣装の中から雪夜が選んだのは…… 「っじゃ~~ん!!」 「おっ!……お~……ぇ?」    両手をあげてポーズを決める雪夜を上から下まで高速で三度見した夏樹の手からポロリとカメラが落ちた――  ……なんで……よりによってソレを選んじゃったのぉおおお!?  夏樹ががっくりと床に崩れ落ちると、雪夜がポーズを変えた。 「だぁ~れだ!」  誰って……そりゃこの声は雪夜だろうけど……    夏樹の目の前には、ムチムチわがままボディの全身ピンクのブタさん……の着ぐるみがくねくねとポーズを決めていた。    うん、雪夜はぶぅしゃん好きだからね。そっかぁ~、今日はぶぅしゃんの日かぁ~。  ぶぅしゃんになってみたい気分だったかぁ~…… 「あれぇ?なちゅしゃん、ぽんぽんぺいん?」 「……チェンジ!!」 「ふぇ?」  夏樹は真顔で目の前のブタの頭部をスポンと引き抜いた。   「ぅぶっ!?」  雪夜は一瞬なにが起こったのかわからないという表情でキョロキョロしていたが、夏樹の仕業だと気付くと、 「あっ!ぅふふ、ゆちくんでした~!」  と、慌ててポーズを決めて悪戯っぽく笑った。    くっ、萌……だがしかしっ!! 「わ~、雪夜だったのか~!顔が見えなかったから誰かわからなかったな~、ハハハ(棒読み)……はい!じゃあ次は雪夜の可愛い顔が見えるやつに着替えてみようか!!」  夏樹は笑顔のまま雪夜を寝室に押し戻した。 「え~、着替えるの~!?これダメ?なっちゃんのお気に召さなかった?雪ちゃんはお気に入りなのにぃ~?」 「裕也さん、顔が完全に隠れるのはダメです!雪夜の可愛い顔が見えない!それに視界が狭いから危ないし、こんなの被ってたらご飯が食べられないでしょう!?しかもよりによってなんで……こんな無駄にリアルなブタに……!?せめてもう少し可愛いブタにしてくださいよ!!」  夏樹は雪夜が被っていた“無駄にリアルなブタ”の顔面をベシベシ叩いた。 「雪ちゃんの好きなぶぅしゃんを忠実に再現しただけなのにぃ~」 「忠実に再現しなくていいです!とにかく雪夜の顔が出ていて、もっと可愛いやつはないんですか!?」 「じゃあ~……これとか?」 「却下!はい、次!」 「ええ~!?じゃあ、これは!?」 「う~ん、可愛いけど座りにくそうだから却下です!はい次!――」 *** 「じゃ~ん!」  雪夜が何回目かのポーズを決めた。 「うん、いいね!これにしよう!」 「がお~!がぶがぶ~!」 「ははっ、可愛いオオカミさんだね!食べちゃいたい!」  ようやく満足のいく衣装を見つけた夏樹は、一生懸命オオカミになりきってがおがお言っている雪夜を抱きしめると、頬を軽く甘噛みした。 「ぴぇっ!?メッ!なちゅしゃん、メッ!ゆちくんおいしくないの!」  オオカミの仮装をした雪夜が、慌ててぷにぷに肉球付きの手で夏樹の両頬を挟み込みグイッと押しのけた。 「え~?美味しそうだけどな~?」 「いやんよ!メッ!なのよ!?がぶがぶは、メッ!」 「いやんか~……ん~~!もふもふオオカミさんは抱き心地も最高だね!」 「もふ~?」  オオカミの衣装はどちらかと言うと着ぐるみパジャマのような感じで、フード部分がオオカミの顔になっている。  仮装した雪夜は全身毛皮で覆われていて、もふもふだ。 「うん、雪夜はもふもふぷにぷにだね」 「ちもちいい?」 「うん、気持ち良いよ~」 「んふ~!ぷにぷに~!」  雪夜も自分の両頬を肉球で挟んで、ちょっとくすぐったそうに笑った。   「着替えは済んだか~?」 「お~?こりゃまた可愛いオオカミさんだな~」 「オオカミ雪ちゃん、こっちにおいで~!」 「待て!先に撮影会だろう!?」 「可愛いオオカミさんにはお菓子をあげようね~」 「わーい!」 「え、お菓子あげちゃうんですか?」  夏樹たちが寝室で雪夜の面白ファッションショーをしている間に、パーティーの準備は終わっていた。  夏樹がオオカミ雪夜とじゃれていると、先に着替え終わっていた愉快な兄さん連中が雪夜を囲んで撮影会を始め、次々にお菓子を貢ぎ始めた。  ハロウィンってそういう行事だっけ……?   「さ・て・と……なっちゃん?次はなっちゃんの番だよ?」 「え?」  シレっと撮影会に参加しようとしていた夏樹の肩を、若干疲れた様子の裕也が掴んだ。 「なっちゃんの衣装もちゃんと用意してあるから、着替えてきてね?」 「え?いや俺は別に……」 「ね!?」 「ぅ……ふぁ~ぃ……」  裕也に渡された袋を持って寝室に戻った夏樹は、衣装を見て思わず絶句した。 「……え、俺の衣装って……コレ!?ちょ、裕也さあああああああああああああん!?――」 ***

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