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SS5【ハロウィンパーティー(後篇)】

「わぁ~、なちゅしゃん、りんごしゃんね~!」  寝室から出て来た夏樹を見て、雪夜が嬉しそうに手を叩いた。 「ハハハ、うん、リンゴさん……だよね~……」  どうも、夏樹リンゴです。って、なんだか違和感ないな……見た目は違和感ありまくりだけどね!? 「あの~……裕也さん?この衣装は一体……?」 「え?リンゴだよ?」  それは見ればわかる。  そうじゃなくて…… 「なんでリンゴ?ハロウィンならかぼちゃでしょ!?」 「かぼちゃが良かった?」 「いや、かぼちゃの衣装が着たかったわけじゃないですけど……っていうか、兄さん連中の衣装も……あれはなんなんですか……?」  夏樹のリンゴもそうだが、兄さん連中の衣装は作るのが間に合わなかったからとりあえずネットで面白コスチュームを適当にかき集めてきたのか?と思うようなものばかりだ。 「既製品なんかじゃないよ!?みんなの分もちゃんと今日のために僕が作ったもん!それに、適当じゃないし!今回のテーマは『世界の童話』だよ!あのね、雪ちゃんのブタの衣装を作ってる時に思いついたんだ!衣装の素材だって……」 「はい、裕也センセイ!『世界の童話』とリンゴになんの関係があるんですか!?」  裕也がひとりひとりの衣装のこだわり部分を熱く語ろうとしたので、夏樹は慌てて遮った。  裕也さん、語り出すと止まらないからな~……  それにしても、リンゴが出て来る童話があるってことか?  世界の童話なんてあまり読んだ記憶がないのでピンとこない。  母親が好きだったから、子どもの頃に『シンデレラ』はよく読み聞かせしてもらった覚えがあるけど……あれにはリンゴ出てこないよな? 「も~、なっちゃんは察しが悪いな~!だから……“白雪姫の毒リンゴ”だよ!」 「あぁ……」  そういえば、『白雪姫』の物語には毒リンゴが出て来るんだっけ……?  って、なんだその微妙なチョイス!わかるわけがない!  だいたい、傍から見たらただのリンゴだし!?  そりゃまぁ、『白雪姫の毒リンゴ』だろうと、『普通のリンゴ』だろうと、仮装は仮装だから別にいいんだけれども!!  他の兄さん連中の一見まとまりのない面白コスチュームも、夏樹と同様に『世界の童話』に出て来るなのだとか。  ちなみに、兄さん連中は自分たちの仮装が何の童話に出て来るものなのかは一切気にならないらしい。  というか、『世界の童話』をテーマに作られているということも知らなかったようだ。 「ナツ、こういうのはな?よく言うだろ?ほら……“気にしたら負け”」  『ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家に使キャンディケイン(ステッキの形のキャンディ)』の仮装をした斎が悟りきった顔で言うと、他の兄さん連中も「そうそう、慣れればどうってことないぞ」と頷いた。  イケオジ軍団の兄さんらが面白コスチュームを着ているのはひどく滑稽ではあるが……  兄さん連中は副業の関係でいろんな所に潜入することもあり、変装することも多い。  場合によっては着ぐるみに入ることもあるので、こういう面白衣装にも慣れっこなのだとか。  それに…… 「こ~しゃん、これ、なぁに?」 「ん~?俺の恰好は……おいユウ!これはなんの仮装だっけ?」 「え~?コージのは『アラジンの魔法の絨毯』だよ~。ほら、空を飛ぶやつ!」 「え!?俺空飛べるのか!?」 「そんなわけないでしょ。飛べるようにするにはもうちょっと改良しないと……」 「な~んだ。雪ちゃん、俺は『空を飛べない絨毯』らしいぞ」 「お~!じゅ~たん!こ~しゃん、しゅごいね~!」 「雪ちゃんは優しいな~!空を飛べない俺にそう言ってくれるのは雪ちゃんだけだ!」 「はははっ、空を飛べない絨毯なんて、ただの絨毯だしな!」 「やかましいわっ!おまえらも他人の事は言えねぇだろうがっ!――」 「たかしゃんは、なぁに~?」 「俺のはな~……――」  雪夜はもふもふの手袋を脱いでみんなの衣装の触り心地を確かめたり、何の仮装なのか当てっこをしたりと楽しそうだ。    うん、まぁ……雪夜が楽しんでくれてるならいいか!  大丈夫だ!みんなでやれば怖くない!!  この格好でどこかに出かけるわけでもないしね!  夏樹は自分に言い聞かせた。 ***  その後は、みんなでかぼちゃの料理やかぼちゃのデザートを食べたり、かぼちゃのランタンを作ったりして一日中賑やかに過ごした。  そしてその夜…… 「雪夜、trick or treat!」 「なぁに?」 「あのね、お菓子をくれないとイタズラするぞ!っていう意味なんだよ。trick or treat!って言われたら、夏樹さんにお菓子を渡してね?じゃないと、夏樹さんイタズラしちゃうよ?」  本当はハロウィンパーティーの最中に雪夜に「trick or treat!」と言ってもらい、ひとりずつ雪夜にお菓子を渡すという予定だったのだが、兄さん連中が待ちきれずに勝手にお菓子を貢いでしまったので、結局パーティーでは雪夜は言う機会がなかった。  でもせっかくなので、せめて雰囲気だけでも……と、寝る前に少し説明を兼ねて実践しているところだ。 「とぃっとっとぉ~?」 「うん。雪夜が言った場合は、俺が雪夜にお菓子を渡すんだよ。で、俺がお菓子を持ってなかったら、雪夜が俺にイタズラをするんだよ。でも俺はさっき雪夜に渡したから、今度は雪夜が渡す番だからね。じゃあ、もう一回言うよ~、trick or treat!」 「とぃっとっとぉ~!」 「えっと……雪夜さん?俺にお菓子くれないの?」  雪夜は夏樹の真似をして復唱するだけで、一向にお菓子を渡そうとはしない。  う~ん……今日の精神年齢だとちょっと理解するのは難しいか? 「なちゅしゃん、くらしゃい!」 「俺はさっきお菓子あげたでしょ?」 「もっと!」  あ、これたんにお菓子が欲しいだけだな。 「残念でした~。夏樹さんはもうお菓子持ってないよ~?」 「なちゅしゃん、ないない?」 「うん、もうないよ」 「ないないは、いたじゅら!」 「……へ?ちょ、えっ!?」  雪夜は瞳をキラキラさせながら満面の笑みを浮かべると、勢いよく夏樹に抱きついてきた。  え、ちょっと待って!雪夜がイタズラするの!?俺に!?大胆に押し倒してきて一体ナニを……じゃなくて、何をしてくれるのっ!?えっ、俺はどうすればいいの!?ジッとしてればいいの!?それとも俺もイタズラしていいの!?あ、もっと触る!?脱ぐ!?脱ぎましょうか!?――  雪夜がイタズラをしてくるのは想定外だったので、夏樹は軽くテンパっていた。 「ちょっ、あの……ゆ、雪夜?えっと……イタズラは……いや、してもいいんだけどね?全然いいけど、どんなイタズラを……って、あれ?雪夜?」 「……」  抱きついている雪夜が動かなくなったので、ちょっと引きはがして顔を覗き込む。 「……お~い、雪夜さ~ん……」 「んぅ~……」 「……もしかして、寝てる……?」  夏樹に抱きついたまま、雪夜は気持ち良さそうに爆睡していた。  いや、わかってた!  うん、俺わかってたよ!  どうせこんなオチだろうと思ってたよ!!  パーティーではしゃいでたから疲れたんだよね!  でもちょっとだけ……ほんのちょっとだけ期待しちゃってたよね……いや、これは期待するだろ!?  エロいことは無理でも、せめて雪夜からキスとか……あ、それは別にイタズラじゃないか。  はぁ~もう、びっくりしたぁ~……   「……ふ、はっ、はははっ……もぉ~!なんだよそれ!どんなイタズラなの……!」  夏樹は雪夜をやんわりと抱きしめたまま、起こさないように声を抑えてしばらく笑い続けた――   ***

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