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SS6【水の中の天使 4(夏樹)】
『――今日は~……Aチームだね!』
事前に裕也がホテル側からの情報と監視カメラの映像などを元に調べてあるので、主要メンバーの顔は把握済みだ。
ターゲットは、ぼんぼん数名を筆頭にいくつかのグループに分かれている。
取り巻きの数や顔ぶれは日によって多少変わるようだ。
ちなみに、Aチームというのは裕也が勝手につけた呼び名で、AチームのAは「AHO 」のAらしい……他のチーム名も単語の頭文字らしいが、何となく想像ついたので聞くのは止めた。
グループに分かれて動いているということは、ただのぼんぼん連中の気まぐれなお遊びではなく、そいつらをまとめている存在がいるということだ。
ぼんぼん連中は恐らくただの金づると隠れ蓑にされているだけだろう。
相手の素性がわかっているので捕まえるだけならいつでもできるのだが、ぼんぼんの親がいろいろと面倒なので、言い逃れが出来ないように現場を押さえる必要があるらしい。
『今のところ室内プールの方は、男しかいないよ』
夏樹が先ほど見回った時も、室内プールの方には年配の男性が数名しかいなかった。
ということは室内プールの方は素通りしてくるはずなので、室外だけを監視していればいい。
裕也からの連絡を受けて、夏樹はざっと周囲を見回した。
現在、室外プールの利用客は男女合わせて20人程度。
今までの被害者のデータから、奴らに狙われそうな女性客数名の位置を確認する。
チッ!……さっきよりもばらけてるな……
「ん~……よし、ナツ!カクテル一杯でいいぞ!」
「へ?」
奴らに警戒されないように監視するためにはどの位置に行くべきかを考えていた夏樹に向かって、「仕方ねぇなぁ~」という口調で斎が声をかけてきた。
手を貸してやるから後でカクテルを一杯奢れということだ。
「え、待って?あの~……斎さん?その一杯って……グラス一杯分の一杯?それともい~~っぱい!の一杯?どっちですか!?」
「そりゃおまえ……一杯は一杯に決まってんだろ?」
兄さん連中が揃ってにっこり笑った。
だからどっちだよっ!?イヤだ、日本語怖いっ!!
っていうか、そもそもこれ兄さん連中に来た依頼ですよね!?
「ほら、ふざけてないで集中しろ!来たぞ、アレだろ?」
一番ふざけた格好をしている浩二が、クイッと室内プールへとつながる通路のアーチを顎で指した――
***
とりあえず兄さん連中の周辺にいる女性客は任せることにして、夏樹はその場を離れた。
適当に空きグラスの回収をしつつ、やつらに狙われそうな女性客を見守る。
最初に声をかけるとすれば、あの辺りからだとは思うけど……
奴らは早速、夏樹の読み通りの女性客に声をかけた。
だが、チェックイン時にホテル側からも女性客に注意を促しているおかげか、女性側のガードが固くなっているらしく、すげなく断られていた。
その後、数人に声をかけるものの、結果は同じだった。
奴らは今までがよほど成功率が高かったのか、今回の狩りにも自信があったらしく……思うようにいかない狩りに明らかにイライラし始めていた。
いい加減、男連中だけで大人しくプール遊びをするなり、ここを去るなりしてくれればいいんだけど、どいつもこいつも諦め悪そうな顔してるしな~……
まぁ、ここまでは裕也の計画通りだ。
恐らく取り巻き連中とぼんぼんの繋がりは薄いので、狩りがうまくいかずにイライラし始めると、勝手に仲間割れを始める可能性が高い。
そうなれば捕まった時に自分だけが助かろうとして仲間を裏切りやすいので、口を割らせるのが楽なのだ。
案の定、奴らは徐々に態度が横柄になって、悪態を吐き始めた。
ただ、予想外だったのは、仲間割れを始めるのではなく近くにいた子どもに絡み始めたことだった――
***
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