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SS6【水の中の天使 5(夏樹)】

「裕也さん、あれ――」  夏樹は止めに入ってもいいか裕也に確認を取った。   『ダメだよ。下手に声かけたら奴らに逃げられちゃうかもしれないからね』  裕也が冷静に答える。  兄さん連中の目的は、あくまで奴らを婦女暴行の現行犯で捕まえることだ。  子どもに絡んでいる程度では奴らを捕まえる理由にならない。  それはわかるけど…… 『心配しなくても近くに親がいるはずだから、なっちゃんが行く必要はないんだよ』  夏樹がすぐに返事をしなかったせいか、裕也が子どもに言い聞かせるように声音を和らげた。  たしかに、小学生以下の子どもがプールを利用する際には室内も室外も保護者同伴が必須となっているので、子どもが絡まれていればすぐに保護者が気付くはずだ。  奴らにしても狙いは子どもじゃねぇし、無用な争いは避けるか……  裕也の読み通り、親が来ると子どもは即解放されて、特に奴らとトラブルになることもなく無事に去って行った。 『ね?大丈夫だったでしょ?子どもの親にしても、ああいうのとは関わり合いになりたくないから、余程のことがない限りは揉めることはないんだよ』 「そうですね……」  夏樹は胸をなでおろしつつ、ぼんやりと親子の背中を見送った。  バイトスタッフとして潜り込むことが決まった時、斎から渡された資料で仕事内容やプールの利用規約などは全て頭に叩き込んだ。  だから子どもは保護者同伴ということも把握していたはずなのに、夏樹は裕也に言われるまで“保護者が助けに来る”という考えが全く浮かばなかった。  そうか……保護者は子どもを助けるんだったな……  白季組に引き取られて数年。頭ではわかっているが、まだに慣れない。  夏樹にとって両親が亡くなった後のは、助けてくれる存在というよりもむしろだったし、白季組に引き取られてからはギリギリのところで愛華が必ず助けてくれるものの、そもそも夏樹を危機的状況に陥らせているのもその愛華なので、やっぱりとはちょっと違う気がするし……そんなわけで夏樹にはの感覚がイマイチわからないのだ。 「……そっか、心配することないのか……」  夏樹はこめかみを軽く掻きながら、もう一度頭の中にインプットするように呟いた。 ***  子どもが保護者と去った後、連中はプールサイドの植物やら飾りやらを蹴り倒しつつ一旦プールから姿を消した。  おいおい、おまえらそれ器物損壊だぞ~? 『バーの方に行ったね。まぁ、バーにはあいつらに狙われそうな女性客はいないから、しばらく休憩してまたプールに行くつもりなのかもね~』  ……ったく、誰が片付けると思ってんだこれ……  夏樹はため息を吐きつつ、プールサイドに散らばった飾りを手に取った。 『あ、なっちゃん、あいつらが壊した物はまとめて後で請求するから記録しといて~』 「了解です!」  是非とも、片付ける俺の手間賃もついでに上乗せしておいてください! ***  連中が戻って来たのは、昼過ぎ。  昼食を挟んで、プールの利用客もガラッと入れ替わっていた。  午前中よりも奴ら好みの女性客が多いな……  ただ、午前中はひとりでくつろいでいる女性が多かったのに対して、午後は恋人や友人と一緒に利用している女性が多かった。  まず狙われるのはおひとり様か女性だけのグループだ。  だが、午前中と同じ理由で午後も狩りはことごとく失敗。  酒を呑んで軽く酔っ払っている上に狩りがうまくいかないので、やがて連中はまた周囲に当たり散らし始めた。  連中の様子に周囲が警戒してそっと傍を離れようとする中、ふと幼稚園か小学生低学年くらいの子どもが目に入った。  何かに気を取られているのか足元が頼りない。  あの子危なっかしいな……  夏樹が眉をひそめて見ていると、ふらふら歩いていた子どもは、反対側から勢いよく歩いてきた中年女性とぶつかって弾かれるようによろめき、あろうことか連中の輪の中へと倒れこんだ。 「あっ……!」  思わず駆け寄ろうとして、午前中に裕也に言われた言葉を思い出す。    っと……、あの子小さいから親がすぐに来るよな。   「……」  すぐに保護者が来るだろうと思い一度は足を止めたが、周囲を見回した夏樹は胸騒ぎがしてジリジリと距離を詰め始めた。   「裕也さん、あの子の親ってどこらへんにいます?近くにそれっぽいのが見当たらないんですけど……」 『ちょっと待ってね、今映像確認して……ん?……あ~……なっちゃん、その子迷子っぽい』 「え、迷子!?じゃあ、どうやってプールに……」 『あのね~、入って来た時には中年男性と一緒だったからそれが親かと思ったんだけど、どうもたまたま一緒になっただけっぽい……ので、タカに親のフリして助けに行っ――』 「――っ!!」 「ぇ?」  夏樹が裕也の話に気を取られていると、連中に囲まれてパニクったのか子どもが急に甲高い声で叫び始め、それに驚いた連中がその子を持ち上げると荒っぽくプールに投げ入れた。 「……っのやろうっ!!」 『あ、ちょ、なっちゃん!?なっちゃんはそっちじゃなくて……って、もぉ~……!』    裕也が何か言っていたが、頭に血が上っていた夏樹の耳には入って来なかった。 「逃がすか……よっ!!」  夏樹はイヤホンを近くのビーチベッドに放り投げるとプールに駆け寄りながら両手を広げ、その場から逃げようとしていた連中のうちの2人の首に思いっきりラリアットをかまし、そいつらも道連れにしてプールに飛び込んだ――   ***

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