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SS6【水の中の天使 11(斎)】

「慎也、いい加減に落ち着け!雪夜が心配してるじゃないか!」  部屋を移動してからも次兄は弟を抱きしめて離そうとせず、弟は必死に次兄の頭を撫で続けていた。  一方、長兄はすぐに落ち着きを取り戻し、斎に改めて頭を下げて来た。 「すみません、弟がお世話になりました……」 「いえいえ……」 「ところで……“うちの可愛い天使”をプールに落としたという犯人は今どこに……?まさか逃げたとか?」  あ、やっぱりそこ気になるよね~……? 「あ~……まぁそうですね……」  犯人のうち、2人はすでに捕まえて別の部屋に監禁してます。  逃げた奴らもちょうどこれから捕まえるところです。  なんて言えるわけがないので、さすがの斎もちょっと言葉に詰まった。   「逃げたんだな!?くそっ!……あ、いや、あなたたちを責めているわけではないので気を悪くしないで欲しい。だが……犯人の特徴は!?何人いた!?着ていた服装とか、顔とか、髪型とか~……とにかく、何か覚えてないのか!?早く警察に……いや、ダメだ!それよりも……そうだ、この手で見つけ出す!絶対に逃がさない!絶対にこの手で……っ!!――」  あ、全然落ち着いてなかったわ。  長兄の方は冷静そうに見えたけど……気のせいだったみたいですね。  声は抑えてるけど、目がマジだよ、目が! 「んん゛、まぁ、お兄さん落ち着いて。逃げた犯人なら、弟さんを助けた私の知り合いが追いかけて行きましたし、警察にはもう知らせてあります。ですから、必ず犯人は捕まりますよ」 「だが、犯人が全員捕まるとは限らないじゃないかっ!」 「大丈夫です、全員捕まります。それに……こんな幼い子を平然とプールに投げ入れるような奴らなので、どうせロクな生き方はしていないはずです。他にも余罪はあるでしょうし、ちゃんと“それ相応の罰”は受けますよ。……ね」  興奮している長兄を落ち着かせるために、斎はあくまで穏やかに仕事モードで話した。 「なぜ言い切れるんだ……っ!?」 「……」  斎は答える代わりに口元に人さし指を当て、意味深に微笑んだ。  警察に知らせているというのは嘘だ。  なるべく秘密裏に……と言うのがホテル側からの要望なので、最初から警察に連絡する気はない。  だが、それ以外は全て本当のこと。  全員もれなく捕まります。(俺たちに)  全員それ相応の罰を受けます。(俺たちの手によって)  誤魔化しが通じる相手ではなさそうだったので、斎はあえてみた。  それをどう受け取ったのかはわからないが、長兄はしばらく斎の顔を凝視した後、フゥっと息を吐いて「そうですね……きっと罰を受けますよね……」と頷いた。  やれやれ。  まぁ、犯人を自分の手で……という気持ちはわかるけど、きみたちは一般人だからね。  荒事は俺らに任せておけばいいんだよ。  は大切な弟たちの傍にいて、しっかり守ってあげなさいね。  と、その直後…… 「たちゅにぃに!ぷんぷんはメッ!ニコニコよ~!だいじょぶよ~!――」  内容が内容だけに、弟たちとはだいぶ距離をとって話していたにも関わらず、長兄の様子がおかしいことに気付いた“ユキくん”が慌てて長兄の頭も撫でにきた。  ユキくんに撫でられた途端に長兄の肩から力が抜け、表情も和らぐ。 「雪夜、大丈夫だぞ!にぃにたちはケンカしてないからな!雪夜を助けてくれてありがとうって言ってたんだ!」  どうやらユキくんは長兄が斎に対して怒っているのだと思ったようで、必死に「ケンカしないで仲良くして!」と仲裁してくれているらしい。  微妙に勘違いしているのが子どもらしくて可愛いし、ユキくんのおかげで長兄が落ち着いたので結果オーライだ。  あらやだ!俺、子どもに庇われるの初めてだわ。ちょっとときめいちゃうかも!  なんてな。  うん、ナツに刺されそうだから絶対言わねぇけど。  それにしても…… 「ところで、ここにはきみたち兄弟3人だけで?」 「え?あ、いえ……父も来ていますが、今は仕事中で……そもそも私たちが部屋を取っているのはホテルですし……」 「ん?……隣の……?」  おいおい……それはさすがに予想外だぞ? 「実は……――」 ***

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