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SS7【お花の国の〇〇 1(夏樹)】

 ここは上代総合病院の中庭。  中庭には様々な季節の花が植えられており、ちょっとした庭園になっている。  暖かい日差しの中、色とりどりの花に囲まれたベンチに座る端正な顔立ちの少年がひとり……  瞳を潤ませ、唇を尖らせ、眉間に軽く皺を寄せている様子から、どうやらご機嫌斜めのようだ。  その少年を少し遠くから眺める小さい影がひとつ――……   *** 「……ぼくはまだ怒ってるんだからね!?」  (りん)は膝を抱えて俯いたまま怒鳴った。 「きゃんっ!?ご、ごめちゃい!」  ジリジリと近付いてきていた影が、小さく悲鳴をあげてその場にしゃがみ込んだ。 「え……あかちゃん?」  てっきり母親が迎えに来たのだと思っていた凜は、相手が小さい子どもだったことに驚いて、慌てて立ち上がった。  うずくまって震えているその子はなぜかウサギの耳のように両手のひらをピンと頭の上に立てていた。  これは……ウサギのフリをしてるのかな?ぼくは気づかないフリをした方がいいの……? 「えっと……あの~……ウサ……あかちゃ……」  そっと近づいた凜がどう話しかけるべきか戸惑っていると、その子はパッと顔をあげて不満そうに凜を見上げた。 「ちがう!ゆちくんよ!あかちゃんないもん!」  あ、ウサギになってたわけじゃないのか。  あかちゃんじゃないもんって言ったのかな?う~ん……  小学生の凜にしてみれば、目の前でうずくまっている子は十分“赤ちゃん”に見えるのだが……  生まれたてのあかちゃんよりはちょっと大きいってことかな? 「あの……大きな声出してごめんね?ぼく、ママが来たんだと思って……えっと、あかちゃん……じゃなくて……“ゆちくん”って言うの?」 「あい!ゆちくんでしゅ!あかちゃんないもん!」 「そか、わかった!じゃあ、ゆちくん、こっちにおいでよ。いっしょに座ろ?」 「あ~い!……うんしょ!う~~~んっ!!……」  ゆちくんは勢いよくベンチによじ登ろうとしたものの、ちょっと足をバタバタさせただけで力尽きて、結局よじ登ることは出来なかった。   「えっと……ぼく、抱っこしようか?」 「……だっこ……」  ゆちくんはちょっと悔しそうにベンチをペチンと叩くと、申し訳なさそうに凜に向かって両手をあげた。  凜はにっこり笑ってゆちくんを抱き上げると、ベンチに座らせて自分も隣に座った。 ***  ゆちくんはたぶん、ここに入院しているのだろう。  パジャマの代わりに聖歌隊が着る真っ白いガウンのような服を着て、真っ白いかぼちゃパンツをはいていた。    可愛いなぁ……なんだか天使みたい……  凜は、天使の羽がないかと思わずゆちくんの背中を確認した。 「?」 「あ、ううん。なんでもないよ。コホン、それでゆちくんはぼくになにか用なの?それとも、お花を見に来たの?」 「あの、えっと……あのね?にぃには、お~じしゃんでしゅか?」 「……え?」  お~じしゃんって、王子様ってこと?  ゆちくんは持っていた絵本を開いて「これ!いっしょ!」と見せて来た。  クリクリの瞳をキラキラさせて、ぷっくりした頬を紅潮させながら期待を込めて「おうじさま?」と聞かれて、凜はちょっと反応に困った。  ゆちくんはぼくをこの絵本の王子様だと思ってるの?  いや、この王子様よりぼくの方がかっこいいでしょ!?  って、そうじゃなくて…… 「ちがうよ!ぼくは夏樹 凜(なつき りん)だよ!」 「なちゅ……?……あ!お~じしゃん、ひみちゅよね!」  ゆちくんは自分の人さし指を唇に当てて真剣な顔で「しぃ~~……ね!」と言った。 「え……あ、うん」  ゆちくんに圧倒されて思わず返事をしてしまったが……  凜は「一体何がヒミツなんだろう?」と首を傾げた。    もしかして……王子様ってことを隠すために嘘の名前を言ったと思ってるのかな……?  本名なんだけどな~…… ***

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