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SS7【お花の国の〇〇 4(雪夜)】

「ねぇ達也兄さん。もし雪くんの話が夢じゃないとしたら……それってもしかして……」 「不審者!?」 「不審者か!?」  雪夜の話を聞いた達也と慎也は、ハッと顔を見合わせると声を揃えた。 「たたた大変!どうしよう!?可愛い雪くんがふふふ不審者に……変態さんにいいいい!!」 「おおおお落ち着け慎也!まだそうと決まったわけじゃ……」 「そ、そうか!雪くん、そいつに変なことされなかった!?」 「ふぇ~~!?」  雪夜は急に慎也に両肩を掴まれてガクガクと揺さぶられ目を回した。 「べたべた身体を触られたり、叩かれたり、ぎゅってされたり……」 「にぃに、だいじょびよ~!あのね、お~じしゃん、やしゃち~のよ!……えっとね、あのね、あ!ゆちくん、だっこで、ぎゅぅ~!ちてもらった!」 「「ぬぅわんだっとぅぇええええ!?」」 「ふぇ……?」 「そそそれってもう完全に……アウトぉおおおお!!」 「父さんに言って警察に突き出してやる!」 「にぃに、てぇ~しゃちゅってなぁに?」 「おまわりさんのことだ。悪いことしたヤツを捕まえて懲らしめてくれるんだぞ!」  おまわりさん!?え、おうじさまつかまえるの!?なんで!? 「ああああの、お~じしゃん、わるないよ?あのね、ゆちくんおいしゅにしゅわるにね?ゆちくんだっこって……」 「うんうん、雪くんは優しいからね、みんな良い人に見えちゃうんだよね……でもね?……雪くんにちょっとでも触ったってだけで万死に値するんだよっ!!小汚いブ〇野郎がっ!!」 「ク〇変態親父がっ!!」 「ひぃん……」  にぃにたちがこわいでしゅ……  雪夜が凜がどれだけ優しい王子様だったかを話せば話す程、なぜか兄たちの口が悪くなっていく。  普段話す相手が少ない雪夜は、喋るのが苦手だ。  頭の中ではいっぱい考えているけれども、声に出すと舌が回らずうまく喋れない。  考えていることが上手に伝えられないせいで、兄たちがどんどん誤解してしまっているのだが、この時の雪夜にはまだそれがわからなかった。  なぜなら、雪夜本人はちゃんとお話し出来ているつもりだったのだ。  おうじさまはキラキラしてて、まぶしくて、すごくかっこよくて……おひさまのにおいがして、やさしかったんだよ……?  にぃにたちもおうじさまとおともだちになってくれたらうれしいなっておもっただけなのに……  なんでこうなるのぉおおお!? 「あ、雪くんに怒ってるわけじゃないからね~?よしよし、おっさんに触られてイヤだったよね~」 「あのね……ゆちくん、イヤないよ?お~じしゃん、なのよ?」 「ぴかぴか?ハゲてたのかな……」  キラキラしていたと言いたかったのに、ピカピカと言い間違えたが為に、もはや兄たちの中では、雪夜の会った王子様は“小太りの中年ハゲ男”に落ち着こうとしていた。  流れが変わったのは、達也の質問だった。 「雪夜、その変態は何歳くらいだったかわかるか?父さん……えっと、おじちゃん先生くらいだったとか……」 「えっとね……お~じしゃん、ないよ?にぃにとおんなじ!」 「……ん?にぃにと同じ?たつにぃにと同じくらいだったのか?」 「うんうん!う~ん、たちゅにぃにのがおっきいの!」  雪夜が達也の前に立って自分の身長と達也の身長を比べる仕草をして見せた。  王子様はほとんど座っていたので本当はあまりわからないけれど、雪夜の記憶では達也の方が背が高いように感じた。 「……達也兄さんよりも小さいってこと?」 「うんうん!」 「背の低い大人もいるけど……さすがに達也兄さんより小さいってことは……」 「もしかして、おっさんじゃなくて、子どもだったってことか?」 「うんうん、お~じしゃん、にぃにだったの!」 「……」 「「な~~んだぁ~~~!」」  先ほどまで殺気立っていた兄たちは、雪夜の出会った王子様が子どもだったということに気付いて顔を見合わせると、笑いながら膝から崩れ落ちた。 ***  そうしてようやく誤解がとけたものの、今度は達也と慎也のお説教が待っていた。 「まぁとにかく!今回は変態じゃなさそうだから良かったけど……いいかい、雪くん。知らない人にはついて行っちゃダメだからね!?お菓子やおもちゃを買ってあげるよ~とか言われてもダメだよ?それに、ベタベタ身体を触られたり叩かれたりしたら、大きな声で助けを呼ぶんだよ!?」 「うんうん、あ~……あ?」  な面持ちで兄たちの話を聞いていた雪夜は、元気よく手をあげて返事をしかけて、凜にもらったチョコ菓子を握りしめたままだったことに気付いた。    あ、おうじさまにもらったおかし……これはおうじさまにもらったからいいよね?  おうじさまはじゃないもんね!よし、たべちゃえ!  雪夜は急いでお菓子を口に放り込んだ。 「もぐもぐ……」 「雪くん、わかりましたか!?」 「ふぁ~い!」 「ああああ!!雪くん、何食べてるのぉおおお!?」 「ゆちくん、おかちもぐもぐないでしゅ!」 「いやいや、今めちゃくちゃお口もぐもぐしてるじゃない!それに……」 「雪夜、口の周りにチョコがいっぱいついてるぞ!?ほら、その手も……」 「てぇ~?」  達也に言われてお菓子を持っていた手を見ると、ずっと握りしめていたせいか手の中でチョコが溶けてベタベタになっていた。  雪夜はその手をペロペロと舐め、「うふふ、おいちい!」と笑った。 「おいちい!じゃないよ~~~!手出して!?」  慎也が慌ててポケットティッシュで雪夜の手についたチョコを拭う。 「まったく……雪夜、そんな天使みたいに可愛く言ってもダメだぞ!?こればっかりはダメだからな!?ちょうどいま!まさにいま!知らない人にもらったお菓子は食べちゃダメだってお話をしてるんだぞ!?」 「あ~もう!ティッシュじゃダメだ。とにかく早くその手と口を洗いにいこう!」 「あ~い!」  雪夜は達也に抱っこされて、慎也に手と口を拭いてもらいながら病棟へと戻って行った。 ***

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