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SS7【お花の国の〇〇 6(夏樹)】

「雪く~ん!どこぉ~!?」 「にぃに~!ゆちくん、ここでしゅよ~!――」  よかった。ちゃんとおにいちゃんがむかえに来てくれたんだ。  嬉しそうに抱き合っている雪夜たちを見てホッとしていると、今度は達也たちが来たのとは反対の方向から凜を呼ぶ声がした。 「凜~、帰るよ~」 「は~い!今いく~!」  母親に返事をしてゆちくんの方を見たが、ゆちくんはおにいちゃんたちとの会話に夢中で凜が呼ばれたことには気付いていないようだ。  う~ん、バイバイしたかったけど、今話しかけるとじゃましちゃうかな……  凜は結局「ゆちくん、バイバイ」と小声で小さく手を振って、後ろ髪をひかれつつその場を後にした。 ***  注射を頑張ったご褒美に大好きなプリンを買ってもらって軽くスキップをしながらの帰り道。  凜はふと足を止めた。   「……ねぇママ?」 「どうしたの?」 「ってなに?」  別れ際にゆちくんが言っていた言葉だ。  どういう意味なのかわからず考えているところにゆちくんのお迎えが来たので、結局そのままになっていた。  凜はせめてゆちくんが何を言っていたのかが知りたくて母親を見上げた。 「え??なんだかおいしそうね!でもお餅って飲めるのかしら……喉に詰まりそうよね。あ、白玉みたいにちょこんって乗ってるのかしら?ところで、それはどこで売ってるの?」 「ママ、違うよ!「おもとらち」だよ!」 「?う~ん、食べ物じゃないなら……何かの呪文かしら?」  母親が自分の頬に手を当てて小首を傾げた。  一応これでも本人は大真面目で、真剣に考えてくれているのだ。 「あのね、さっきね?――」 「そう……そんなことがあったのね。それなら~……うん、きっと「おともだち」ってことだと思うわ!」  凜がゆちくんのことを話すと、母親はちょっと考え込んでポンと手を叩いた。 「おともだち?」 「うん、凜が会ったっていう天使ちゃんはまだ小さいからちゃんと言えなかったのね。凜も小さい頃はよく「」とか「」とか言い間違えしてたのよ。どや顔でね。それがとっても可愛かったのよね~。そうそうあの時は……」 「あ~なるほど!ママすごいね~!」  母親は思い出さなくていいことまで思い出してしまったようだ。  こうなると、凜の赤ちゃんの頃まで遡って延々と昔話を始めるので、凜は慌てて母親の言葉を遮った。  なるほど、ゆちくんは言い間違えちゃったのか。  言われてみると「おともだち」と「おもとらち」は似ている。 「そっかぁ~……ぼく、あの子がなんて言ってるのかわからなくて、ちゃんとお返事できなかったんだ。……ぼくのこと怒ってるかなぁ……」  あの子はせっかく「おともだちだよね」って言ってくれたのに……嫌われちゃったかな……? 「怒ってはないと思うけど……でも、凜とおともだちになれなくてちょっと残念に思ってるかもしれないわね」 「ええ!?ど、どうしよう……!?」 「そうねぇ……じゃあ、今度会った時には凜から「おともだちになろう」って言ってみたらいいんじゃない?」 「ぼくから?……そっか、そうだよね!うん、ぼくから言ってみる!――」 ***    それからというもの、病院嫌いの凜にしては珍しく、風邪っぽい症状が出ると自分から進んで病院へと足を運んだ。  ゆちくんに会って「おともだちになろう!」と言うためだ。  凜は病院に行くと、待ち時間の間はずっと中庭でゆちくんを待っていた。  それしかゆちくんに会う手段がないから……  ベンチにお手紙を置いておこうかとも思ったが、ゆちくんが一体何の病気で入院しているのか、いつまで入院しているのか、そもそも入院患者なのか……たった数分話しただけの「おともだち」なので、凜には詳しいことは何もわからないのだ。  中庭には他の人もやってくるので、お手紙を置いていてももしかしたら他の人に見つけられて捨てられてしまうかもしれないし、風で飛んでいってしまうかもしれない。  なにより、もう退院してここにはいないかもしれない……  ゆちくんの手元に届く可能性が低すぎるため、お手紙作戦は断念した。 「今日もあえなかったな~……」  ふたりはおよそ一年間、中庭でお互いを待っていた。  だが、凜が病院に行くのは午前中。その一方で、あの一件以来、ゆちくんがお散歩出来るのは夕方、達也たちが遊びに来てくれた時だけに限られていた。  つまり、時間帯が違うので会えるはずがなく、毎回すれ違いになっていたのだ。  結局そのうちにお互いを待つことはなくなり、あの出来事は子どもの頃の淡い思い出になったのだった――…… *** <エピローグ>  十数年後――……  高校生になって体調を崩すことも減り、ようやく普通の学校生活を満喫できるようになった雪夜だったが、入院生活が長かったせいで学力に若干不安があった。  そんな雪夜のために家庭教師を雇うことに。  初回授業の日、緊張気味に待つ雪夜の部屋に入って来た人は、どことなく懐かしい面影のある笑顔で手を差し出してきた――   「雪夜くん初めまして、家庭教師の――」 ***

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