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SS8【ハローベイビー♪6(雪夜)】
「そっか、オムツ!夏樹さん、おトイレ出来ないんだ!」
「ぶふぉー!」
雪夜が叫ぶと、リビングから裕也が何かを勢いよく噴き出して咳き込む声がした。
「ユウ大丈夫か~?」
「だ……ゲホゲホっ……だいじょばなぃ゛!……あ゛~もう!どうしてくれんの!鼻からコーヒー出ちゃったじゃんっ!不意打ち禁止ぃ~~!」
「ちゃんと拭いとけよ~」
斎と裕也がのんきなやり取りをしている横で、雪夜は腕を組んで考え込んでいた。
赤ちゃん……うん、そういえば漫画とかテレビとかでも赤ちゃんはみんなオムツしてた!……ような気がする!
赤ちゃんは自分では何も出来ない、ということはわかっていたが、今まで赤ちゃんや小さい子どもと接する機会がほとんどなかった雪夜には、赤ちゃんは何が出来なくて何をどう手伝えばいいのかがわからない。
「えっと……おトイレは……ど、どうしましょう!?あの、あの、夏樹さん、なお姉がオムツ持って来てくれるまでおトイレ我慢してもらえますか!?」
雪夜は、雪夜の叫び声に驚いたのかびっくりした顔で固まっている夏樹の前に正座をすると、両手を合わせてお願いしてみた。
「あ……あぶぅ~?」
夏樹がちょっと困った顔で小首を傾げる。
「ぶふっ!」
それを見た斎が「もうダメだぁ~」と堪えきれずに吹き出した。
「あはははっ!雪ちゃん、すげぇ無茶振り!……っははは、ヤバい、ツボッた!」
一体どの部分がツボったのかよくわからないが、斎はベッドに転がると腹を抱えて笑った。
その斎の顔を夏樹がここぞとばかりに容赦なくベシベシと叩く。
「あだぁ~!でっ!きゃぁ~い!」
「あいてて……こらちびナツ!目を狙うな!……ぶふっ!……あははっ」
「あわわ、な、夏樹さん、あの、目は危ないので、あの、えっと、叩くのは他の場所にした方が……い、斎さん大丈夫ですか!?」
「あ~大丈夫大丈夫」
嬉々として斎を叩きまくっている夏樹をどうすればいいのかわからず、雪夜がオロオロしていると、斎が自分で夏樹を引き剥がして起き上がった。
「雪ちゃん、赤ちゃんじゃなくても今から夕方までトイレ我慢しろっていうのは無理があると思うぞ?」
斎は笑いながらそう言うと、まだ叩いて来ようとする夏樹の頭を軽く押さえ込んだ。
「え?……た、たしかに!俺も無理ですね!」
なら、一体どうすれば……
「あ!もしかして自分で行けないだけでおトイレに連れて行ってあげたら出来るのかな?う~ん、でも便座に座れないか。座っても穴に落ちちゃうよね……あ、俺がこう前にしゃがんで両手で支えて……」
「はいはい、雪ちゃん一旦落ち着こうか」
「だぁ~だぁ~」
雪夜がどうやって夏樹にトイレをさせるかイメージトレーニングをしていると、斎が夏樹の手を使って雪夜の頬をペチペチと撫でてきた。
「え、あ、はい!なななんですか!?」
「雪ちゃん深呼吸~。吸って~、吐いて~……」
「す~は~……す~は~……」
「はい。まぁ、とりあえず簡易オムツを作ってやろう。夕方までならそれつけときゃ何とかなるだろ」
「簡易オムツ?」
斎は「ジャ~ン!」とどこからか取り出した持ち手付きのビニール袋とタオルを使って器用に簡易オムツを作り、夏樹にササッと装着した。
最初はビニール袋の肌触りにちょっと不満気な夏樹だったが、動くとビニールがガサガサ音をたてるのが気に入ったらしく、ポンポンとオムツを叩いて遊び始めた。
わぁ~、オムツつけた夏樹さん、可愛すぎる……!
「タオルも袋もいっぱいあるし、汚れたらその度にシャワーで洗ってやれば肌は清潔に保てるだろ」
「なるほど!勉強になります!」
「俺も菜穂子先生の受け売りだけどな」
「ということは、なお姉がすごいんですね!」
「そういうこと!」
斎が人さし指を口元に当てて悪戯っぽくウインクをする。
流れるような仕草に思わず一瞬見惚れてしまったが、夏樹の簡易オムツのガサガサ音で我に返った。
「さてと……ところで雪ちゃん、朝飯まだだっただろ?一緒に食おうか!」
「あ、そうでした!はい、食べます!」
「ちびナツにも何か食わせねぇとな~。よ~し、行くか~」
「あ~ぶぅ~!だっ!だっ!」
雪夜がベッドから下りると、夏樹が「抱っこ!」というように雪夜に向かって両手をあげた。
「ハハハ、雪ちゃんの方がいいってよ」
夏樹を抱っこして先に行こうとしていた斎は、苦笑しながら雪夜に夏樹を渡して来た。
「え?あ、はい!えっと、抱っこですね!よいしょっと……」
危なっかしい手付きで夏樹を抱っこした雪夜は、胸元にペタ~っと引っ付いてきた夏樹をぎゅっと抱きしめた。
「ふふ、夏樹さん、朝ご飯一緒に食べましょうね!」
「まんまっ!」
「え?……斎さん!“まんま”ってご飯って意味ですよね?夏樹さん、俺が言ったことがわかったんですか?」
「そうだな」
「わぁ~!夏樹さんスゴイですね!さすがです!」
「あ~ぃ!」
「お返事も出来るんですね!天才です!」
「良かったなぁちびナツ。今なら何しても褒めてくれるぞ?」
「んっふん!」
斎がちょっとからかい口調で言うと、夏樹は斎に向かって鼻を膨らませてどや顔を見せた。
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