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SS8【ハローベイビー♪10(雪夜)】
「颯太 も粘るねぇ~。あいつあんなにナツのこと好きだったか?」
斎は、あの手この手で夏樹の機嫌を取ろうと頑張っている相川に感心しつつ、コーヒーを口に含んだ。
「う~ん、あれは単純に子どもが好きだから構いたいだけじゃないかと……たぶん相手が夏樹さんだってことは完全に忘れてますね」
「うんうん!りんくんも本当に嫌な時はすぐに俺のところに逃げて来るから……意外と楽しんでるんじゃないかな?」
「だよな」
佐々木と雪夜は顔を見合わせて笑うと、斎が用意してくれたコーヒーとココアに手を伸ばした。
「へぇ~……あ、雪ちゃん、ココアまだちょっと熱いから気を付けて。フゥフゥしてね」
「はい!フゥ~、フゥ~、フゥ~、フゥ~……アチュッ!」
「雪夜!?大丈夫か?冷たい牛乳もうちょっと足すか?」
「たふぅ ~!」
雪夜は佐々木に向かって軽く舌を出したまま返事をした。
ちゃんとフゥフゥしたんだけどなぁ~……なんでみんなこんな熱いの飲めるんだろ……
「ほら、これなら飲めるだろ。それで斎さん、肝心の浩二さんはいつ帰って来るんですか?」
佐々木は雪夜のココアを適温にしながら斎に話を振った。
「あいつなら、明後日の夜には日本に帰るって連絡があったぞ」
「んじゃ、あと数日ここに来るのが遅かったら俺らはちっちゃい夏樹さんに会えなかったってことか」
「ん~?いや、まだしばらくはあの状態だと思うぞ。呪いにもいろいろあってな――」
斎は雪夜にしてくれたのと同じように、佐々木にもお祓いや呪いについて簡単に説明をしてくれた。
うん、何回聞いてもよくワカラナイ……
「ふぅ~ん……じゃあ、今回みたいなのは結構レアなケースなんですか?」
すまし顔でハテナマークを飛ばしている雪夜と違い、本当に理解しているらしい佐々木は興味津々で斎に質問を続けた。
「そうだな、しょっちゅうバカ浩二の被害にあってる俺らの中でも、ここまで見た目が変わるのは初めてだし……何よりあの祓い屋が乗り気だから、かなりレアなんだろうな」
「斎さん、その祓い屋って大丈夫なんですか……?」
「一応、祓い屋としては信頼できるぞ?」
「それ以外は?」
「変人だな」
「わぁ~ぃ……不安しかないんですけど!?」
佐々木が引きつった顔で笑うと、斎がにっこりと笑い返した。
「ははは、まあ、お祓いはちゃんとしてくれるさ」
「……そうだとしても、雪夜はお祓いについて行かない方がいい気がするな……」
「え!?なななんで!?俺行っちゃダメなの!?」
雪夜は思わず立ち上がった。
斎さんたちがいるから大丈夫だとは思うけど、俺だってお祓いがうまくいくように夏樹さんの傍でお祈りしてたいのに……!
「絶対ダメ!とは言わないけど……」
今回、夏樹だけが呪われたのは、たぶん浩二のお土産を警戒した夏樹が雪夜にはお土産に一切触れさせなかったからだと思われる。
「だけど、もしかしたらお祓い中にその悪霊?悪魔?そのよくわかんない変なのが逃げようとして他の人にとり憑くとか、他の人が呪われるとかもあるかもしれないだろ?」
もしそうなった場合、狙われるのは心に隙のある人間や弱い人間だろうから……
佐々木が少し言葉を濁した。
「あ~……そっか……その場合、一番狙われやすいのは俺……ですね……」
雪夜は軽くこめかみを掻いてストンと座ると、自分を指差し苦笑いをした。
「あ、いや、その……別に雪夜が弱いって言ってるわけじゃなくて……」
「うん、わかってるよ!」
雪夜は笑って佐々木の言葉を遮った。
「心配してくれたんだよね!ありがとね、佐々木!」
自分でも隙だらけだという自覚はあるし、そもそも自分の精神 が弱いせいで現在進行形でみんなにいろいろと迷惑をかけているという自覚もある……佐々木の心配はもっともなのだ。
たしかに、俺は行かない方がいいかもしれない……
「いや、別に雪ちゃんがいても大丈夫だぞ?そのための浩二だからな?」
「「……へ?浩二さん?――」」
佐々木の心配事と浩二がどう関係しているのかさっぱりわからず、雪夜と佐々木はマヌケな顔で斎を見た。
***
雪夜たちがわざわざ浩二の帰りを待っているのは、祓い屋が「祓う時に必要不可欠!」と言う3点セットに「呪われている品物を購入した人(=浩二)」が入っているからだ。
購入者が必要な理由は、品物についての詳しい背景や購入時の状況などを知るため……とのことだが、よく考えればそんなの別に本人がその場にいなくても、事前に話を聞いたり、電話を繋いだりすればいいわけで……
「つまり、それとは別に、その場に連れて行かなきゃいけない理由があるってことですか?」
「そういうこと。実はな……」
佐々木が心配しているようなことが起こる可能性は十分ある。
そのため、通常そういう可能性がある場合は結界を張ってお祓いが済むまで形代 の中に封印してしまうらしいのだが……兄さん連中の依頼に関してはちょっと対応が特殊で……
いくらお祓いをしても懲りずに浩二が曰く付きのものばかり買って来ては新たな被害者を生み出すので、怒った祓い屋が浩二案件の場合のみ、元凶である浩二を形代代わりに使うことにしたのだとか。
「曰く付きと知っているかはともかく、浩二がその品を選んで買って来たことは事実だ。品に不具合があった場合、そんなものを選んでプレゼントした責任を取るのは当たり前だろう?」ということらしい。
「でもそれだと……今度は浩二さんも赤ちゃんになっちゃうってことですか?」
「いや、それはない」
浩二は曰く付きの品をよく引き当てるくせに本人はなぜかほとんど影響を受けない。形代代わりにして無理やり浩二の中に封印してもほとんど影響が出ない場合が多く、本人は形代代わりにされていることにも気付いていないのだとか。
だからこそ毎回形代代わりに使うなどというメチャクチャなことができるのだ。
ちなみに、祓い屋は「浩二ほど呪いがいのないやつはいないな……」と呆れているらしい……
***
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