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SS8【ハローベイビー♪13(雪夜)】

「安心しろ。化け猫憑いてねぇよ。その顔(の傷)は浩二(おまえ)が悪い」  浩二の必死の化け猫説は、祓い屋に一蹴された。  まぁ、誰がどう見ても浩二が悪い。  斎たちもうんうんと大きく頷いた。 「俺ぇええ~っ!?――」 「さ~て、そろそろ準備するか」  若干不満気な浩二を横目に、祓い屋が膝をパンっと叩いて立ち上がった。  それを見て、雪夜は慌てて手を挙げた。 「あっ!あああの、えっと……俺はどうすれば……?」  お祓いしているところって、見てていいのかな……?    恐る恐る祓い屋に話しかける。  人見知りの雪夜にしてみれば、まだ二回しか会ったことのない祓い屋に自分から話しかけるのはかなり勇気がいるのだ。   「あぁ、は……ここにいない方がいいな」  ……ん?  困惑顔で首を傾げる雪夜の横で、斎が祓い屋と話を進める。 「おや、ダメですか?結界は?」 「ダメだ。結界があってもからな」 「あ~……そうか。じゃあダメですね」 「だろ?結界を強めりゃ完全に遮断することも出来るが、今日はそっちに回す余裕がねぇから無理だ。だから寺務所(じむしょ)で待っててくれるか?一応ゆきりんにも札は――……」 「……」 「ゆきりん、どした?」  キョロキョロしている雪夜の顔を祓い屋が覗き込んできた。   「……ふぇっ!?あ、は、はい!」  あ、“ゆきりん”って俺のことかっ!!  今までそんな風に呼ばれたことないから、誰か他にいるのかと思って探しちゃった……恥ずかしぃ~!ちょっと隠してりんく~ん!  雪夜は真っ赤になった顔を隠すために、抱っこしていた夏樹の頭に顔を埋めた。  兄さん連中がいろいろとのである程度耐性はついていると思うのだが、雪夜にはこの祓い屋のノリがまだよくわからない。  なんとなく裕也や浩二のノリに似ている気もするが…… 「ゆきりん、寺務所はわかるか?」 「ふぁいっ!えっと、ジムショですね、ジムショ!……って、いつもお茶を飲んでるところですよね!?」 「そうそう。のんびりお茶しながら待ってていいからな。茶菓子もいっぱい食っていいぞ~!」  住職がニカッと笑って雪夜の頭を撫でた。 「ひとりは危ねぇから誰か一緒に……ん?おい、他のやつは来てねぇのか?」 「今日は俺と浩二だけです」 「ありゃ……ふむ、どうすっかなぁ~……寺務所にも人はいるんだが、あいつらがずっとついてるのは無理だしなぁ」  斎が「誰か呼び出しましょうか」と携帯を弄り出したので、雪夜は急いで斎を止めた。 「あの、あの、俺ひとりで大丈夫ですよ!?ちゃんと待てます!お茶とお菓子があるし!」 「そうか?変な人についていっちゃだめだぞ?」 「ついて行きませんよ!俺もう大人ですよ!?」 「ハハハ」  唇を尖らせてむくれ顔になった雪夜を見て、斎たちが笑った。   ***  そうだよ、これでも大人だもん!一応ね!?  でも…… 「まだかなぁ……りんくん大丈夫かなぁ……もう泣いてないかなぁ……」  寺務所の休憩室で大の字に寝転んだ雪夜は、天井を見つめながらぼんやりと呟いた。  ――雪夜が寺務所で待つことが決まった後、夏樹は雪夜と離れたくない!とだいぶぐずった。 「ちょっとだけ斎さんと一緒にいてくださいね。俺はあっちのお部屋で待ってますからね。でも、お祓いが終わったらすぐに会えますからね!」 「ヤッ!ダメ!あっちダメぇえええ!」  雪夜が頑張って説得を試みるが、夏樹は「ゆちたん、いっしょがいい!ゆちたん、だっこ!」と必死に雪夜にしがみついて離れない。 「ダメですか~……う~ん、困ったなぁ……」  困ったと言いつつ、夏樹の可愛いワガママに思わず顔がにやけてしまう。    はぁ~……りんくん、きゃわいいっ! 「こまったないの!りんくんいっしょないと、ゆちたんないちゃうもん!……あ、しょ~だ!りんくんもあっちいく!ゆちたんといっしょ!ね!?」  夏樹は「名案でしょ?」とばかりに、にっこり笑顔で雪夜を見上げて来た。 「くっ、可愛っ……じゃなくて、え~っと……それはちょっと……」  俺も一緒にいたいけど、りんくんのためのお祓いだから主役が抜けちゃダメなんじゃないかな~って思うわけなんですがそれにしてもその可愛さはズルいと思いますぅううう!!  ただでさえちっちゃい夏樹にメロメロな雪夜が、今までにないあざと可愛さで押し切ろうとしてくる夏樹に勝てるわけがない。  結局、見かねた斎たちが無理やり引きはがしてくれた。 「はいはい、凜坊。雪ちゃんと一緒がいいのはわかるけど、いまは斎お兄様で我慢しろ~」 「やぁああああっ!!がまんないぃいいい!!」 「雪ちゃん、いまだっ!早く行って!」 「は、はい!りんくんごめんねぇえええええっ!!」 「ぅわぁあああああんっ!!ゆちたあああああああああ――……」  雪夜は夏樹の絶叫を背に、後ろ髪を引かれる思いで寺務所に向かったのだった――  それから数時間……  寺務所にはピカピカ頭のお坊さんらしき人が数人いるがみんな忙しそうで、雪夜は休憩室に案内された後は、ほぼ放置状態だった。  最初は「お祓いが成功しますように!」と正座をしてお祈りをしていたが、休憩室(ここ)からはお祓いの様子が全然わからないので集中するのが難しいし、何よりも足が痺れる。  足を伸ばしたり斜めに座ったりといろいろ座り方を変えながら頑張っていたが、とうとう背中も痛くなってきたので一旦お祈りを止めてゴロンと寝転んだ。 「う~~~ん……足がジンジンするぅ~~……」  考えてみれば、雪夜はあまり長時間正座をしたことがない。   「正座って大変なんだなぁ~……」    新たな発見に感動していると、なにやら廊下の方がざわつき始めて休憩室の襖が開いた。 「失礼します!」 「え、あ、は、はい!……あの?」  焦り気味に入って来たのは、先ほど雪夜をこの部屋に案内してくれた人だった。  たしかみんなからは「たまちゃん」と呼ばれていたはずだ。  「たまちゃん」は慌てて起き上がった雪夜を上から下までサッと見ると、ちょっとホッとした顔になって「どこか変わりはないか」と聞いてきた。 「か、変わり……ですか?えっと……ちょっと足が痺れ……いえ、大丈夫です!あの……」 「そうですか。では……」  「たまちゃん」は、何かあったのかと聞こうとする雪夜を遮って、「しばらくはこの部屋から出ないで下さい。それから、万が一のためにお札は必ず肌身離さず持っていて下さいね!」と言うと、慌ただしく出て行った。 「……は、はぁ~ぃ……」  呆気に取られて思考停止してしまった雪夜は、「たまちゃん」が出て行った襖に向かってポツリと呟くのが精一杯だった。  お札って……  しばらくして落ち着いた雪夜は、自分の背中に手を伸ばした。  休憩室(ここ)に来る前に祓い屋から「これ、御守りね」と言ってよくわからないお札のようなものを背中にぺったり貼られた。「たまちゃん」が言っていたお札というのは、これのことだろう。  自分ではどうなっているのかわからないが、肌に直接貼られているので剥がれれば気付く……はず? 「あ、さっきみたいに寝転んだら剥がれちゃうかも!」  もしかしてそれを注意しにきてくれたのかな?  でもずっと正座はキツイし……どうしよう……? 「そうだっ!次に寝転ぶ時はうつ伏せに寝転ぼう!」  雪夜は「我ながら良い解決策を思いついたね!」と自画自賛すると、また正座をして「りんくんのお祓いが無事に終わりますように!」とお祈りを始めた。  それにしても、「たまちゃん」はなんであんなに焦ってたんだろう? ***

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