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第4話
「よろずやくん…」
柔らかい声に名前を呼ばれて、ドキッとする。そうでなくてもすげー美人に名前呼ばれたらドキッとするよな。
「ありがとう」
「あ、いや…そっ、それより何か飲みませんか?」
「ミルクティーかな」
「ミルクティーっすね」
「あ、いいよ。出すよ」
「律儀に待っててくれたお礼なんで」
ちょっとカッコつけさせてくれ。100円だけど。
財布を出そうとした先輩を制して、100円を投入口へ入れる。ミルクティーのボタンを押すと、すぐにゴトンと紙パックが取り出し口へ落ちてきた。それを手に取って先輩へ渡す。自分のは、カフェオレにした。
「…ありがと」
「どーいたしまして」
たかだか100円のミルクティー。だけど先輩が大事そうに両手で包むから。
俺はそれにもドキッとしてしまった。
我ながらちょろい。
「…よろずやくんって、どんな字書くの?」
「一万の万に谷で、万谷です。ちなみに千景は千に風景の景です」
「へぇー。千と万で何だか縁起が良さそうな名前だね」
「先輩は?」
「清いに浅瀬の瀬で清瀬。すいは平仮名だよ」
「平仮名…。平仮名の名前って、柔らかい感じがしますよね」
先輩にぴったり、なんて。今日会ったばっかの男に言われても嬉しくはないだろうけど。
「そうかな」
だけど先輩は照れたように笑った。
…何かさぁ、初対面だけどさぁ、可愛いわ。
黙ってたら綺麗すぎて少し遠巻きにしちゃうんだろうけど、話してみるといい人だし、こんな風に表情崩れると…ほんとドキッとする。
俺の心臓が忙しい。
美醜で人の魅力が測れるわけじゃないけど、それでもこんな綺麗な人が3番目か…、って何度も思ってしまう。それに、あっさり他の男にあげるよとか言えちゃう真下先輩って…。
「あの、余計なお世話かもしれないですけど、好きな相手だからこそ、嫌なことは嫌ってハッキリ言った方がいいですよ」
「え…?」
「好きだから許せないことってあると思うんです。好きな相手に、他のやつにあげるとか言われたら、嫌じゃないですか。そこは怒っていいって言うか…、うん、怒っていいです。いるとかいらないとか、付き合うってそういうことじゃないんじゃないですか? 分かんないっすけど」
俺まだ誰とも付き合ったことないんで。
先輩はただ、ぽかんと俺を見上げていた。でも、その目にじわりと涙が滲んだのを見た。
「…万谷くんは、優しいね。今日会ったばっかなのに」
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