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第5話

そう言って、先輩は目を伏せた。睫毛が目尻に影を落とすのを、何だか色っぽく感じてしまう。 「物みたいに扱われるの、嫌じゃないですか。気持ちがあるのに、それをないものにされてる感じがして。好きでもないやつに勝手に譲られるんなら、俺がいつ『いい』って言った、って殴ります。そんくらいしてもいいですよ。そんなの他人が決めていいことじゃないし。ましてや笑いものにしようとしてるなんて、腹が立つじゃないですか」 ぷす、と、パックのカフェオレにストローをさす。 先輩は目を伏せたまま、口を開いた。 「…好きだから、逆らえないと思ってた。嫌われたくないから。…でも、あげるって言われた時点で、もう嫌われてるのと同じだよね」 「その…どんな聞き方していいのか分かんないんですけど…、3番目でも、いいって思えるくらい好きだったんですか…?」 俺が聞くと、先輩は小さく笑った。 「知らなかったんだ。最初は」 「え、」 「付き合って、って言われて…びっくりしたけど嫌じゃなかったから付き合うようになって。でも、会えるのは毎週水曜日だけで、何で?って思ってたら谷口くんが教えてくれた。日替わりの恋人がいる、って。別れたかったけど、俺だけを見てくれないかな、って期待したのもほんと。…無理だったけどね」 淋しそうに笑う横顔に、胸が少し苦しくなる。 「他の曜日も会いたい、って言ったんだ。そしたら、いらないから後輩にあげる、って言われちゃった」 「…それだけで?」 「涼輔にはそれで十分だったみたい。余計なこと言わずに、自分と会える時間だけを考えて大事にしてくれる子がよかったんだろうね」 「…ワガママ過ぎません?」 「仕方ないね」 そう言って笑う先輩は、やっぱり少し淋しそうだった。 俺なら仕方ないって思えないけど、先輩はそう思えるくらい好きなんだな。 「他の人たちはきっと、もっと割りきって付き合ってたんだろうね」 「…それって、付き合うって言えるんですかね」 「え…?」 「あっ、別に先輩がそうとかじゃなくて! ただ、自分だけじゃなくていいって思って一緒にいるのって、付き合ってるって言うのかな、って。まぁ、その辺の定義は人によって違うし、周りが色々言っていいことじゃないですし。そもそも付き合ったこともないやつが分かったような口きくな、って話ですけど」 でも。 「でも、何か淋しいな、って」 俺はそう思っちゃうんだよな。

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