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第10話
育ちのいい人がちょっと悪い雰囲気に惹かれちゃうのってよく聞くもんな。
お互い無言のまま駅に着いて電車を降りる。
目的地は一緒だから、やっぱり無言のまま改札を抜けて駅を出た。
昨日は清瀬先輩ともう少し話していたいと思ったのに、今日は真下先輩との沈黙が何か重いから学校が駅から近いってやっぱりありがたい。
「じゃあ先輩、俺また今日 週番なんで」
「…あぁ」
生徒用玄関で、俺は先輩に声をかけて教室棟とは反対方向に向かった。
地学準備室に顔を出して日誌を受けとるというミッションがある。
準備室には既に担任がいて、俺が顔を出すと、「今日もよろしくな」と日誌を渡してきた。
俺はそれを素直に受け取って、教室へ向かおうとした。その時担任が、「そう言えば」と声を上げるから、思わず足を止めて振り返る。
「万谷は清瀬と仲がいいんだな」
「え? あー、まあそんな、ものすごくいいってほどでもないですけど…」
昨日会ったばっかりだしな。
「清瀬はほら、教員がこんな言い方したら誤解を招きそうだけど、すごく美人だろ」
「まーそうっすね。最初 俺ちょっとびっくりしましたもん」
「綺麗さに?」
「そうです」
「万谷は素直でいいなぁ。清瀬は周りにどこか遠巻きにされちゃってなぁ…ちょっと心配してたんだが、後輩と仲良くなれててよかったよ。あれだけ綺麗だと、女子のやっかみもあるみたいでなー。っつってもまぁ、一部からだけなんだが」
「あー…何か、ちょっと、分かります」
「だろ」
まぁ安心した、なんて言って、担任は小さく笑った。
先輩は綺麗だから目立つ分、厄介事にも巻き込まれてそうだよな。
…まぁ、俺との関係なんてほんとに昨日だけなんだけどな。
それが少し淋しいとは思うけど、元々手の届く人じゃないし。真下先輩よりいい人と付き合ってほしいと思うし。
今度は週一じゃなくて毎日会ってくれる人で、先輩だけを見てくれる人。
きっとそういう人はたくさんいるから。
俺も何かこう…寒くなる季節に向かってるからか、人恋しいような…そんな気が、する。
ま、ほんとフツーだから身の丈に合った幸せっつーか。そういう感じでいいや。
そんなことを考えながら、だらだら歩いて教室へ向かう。
「あ、万谷 日誌取り行ってくれたんだー。じゃ、今日も書いて提出よろしくねー。アタシ彼氏と約束あるからー」
…身の丈に合った幸せ、っつっても、こういう相手はちょっとな…。なんて、途中で会ったクラスメートを見て思う。いや、向こうだって俺なんか願い下げだろうけども。
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