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第11話
例えば昨日会ったのが清瀬先輩じゃなくて別の人だったとしても、真下先輩の次に俺と付き合おうなんて気持ちにはならないだろうな。
真下先輩と俺とじゃ、タイプが違う以前に比較にならない。
若干卑屈になっている自分にため息をつきながら教室のドアを開けた。
「あっ、千景!」
「おー。はよ、万亀(まき)」
俺以上に縁起のいい名前である友人が、俺を見た途端こっちへやって来た。
何だ何だ。どうした。
「昨日の何だよ、あれ」
「はぁ?」
「もー! 清瀬先輩と帰ってたじゃん! 千景が先輩と仲いいなんて知らなかったし! 中学違うよな? いつから仲いいの?」
「万亀、ちょっと落ち着け」
「落ち着けるか! 昨日 部活の先輩たちと、美女と野獣? 豚に真珠? みたいに話してたんだけど!」
「おい。2つ目の意味分かって言ってんのか、コラ」
俺は清瀬先輩の価値は分かってるわ!!
美女と野獣は許す!
「たまたまお互い真下先輩の知り合いだった、ってだけだよ」
「あぁ、千景 仲いいよな、真下先輩と」
万亀は頷いて、でも、とまた口を開いた。
「部活の先輩がさ、清瀬先輩が楽しそうって言ってたから。いつの間に千景があんな美人な先輩と仲良くなったんだろーってちょっと話題になったんだよな」
楽しそう…に、見えたんだ。
なら良かった。…本当に良かった。
「お前の友達冴えないな、って言われたけど、あいつはめちゃめちゃいいやつなんです!って言っといたからな」
「それはありがとう」
冴えないのは事実だけどな。
「何かさ、先輩情報によると、清瀬先輩ってあんまり笑わないんだって」
「うっそだーぁ。笑うだろ、人間なんだから」
「いやいや、ほんとだって。千景と一緒にいたこともだけど、清瀬先輩が笑ってるの見てびっくりしてたもん、先輩たち」
「そんなこと…」
あるわけないって。
柄にもなく舞い上がりそうだからやめてほしい。
昨日、結構笑ってくれたし。そんな…いやいや、俺だからってわけじゃないだろ。そんな都合のいいこと考えたらいかん。
俺は身の程をわきまえる男。
「清瀬先輩すげー綺麗だし、遠巻きにしてんじゃねーの? 遠巻きにされたら誰だって笑わねぇだろ」
「ま、確かにねー。綺麗だから近寄りがたさはあるよな。俺や千景みたいなモブ顔には」
「モブって言うな。俺の人生の主役は俺だ」
「カッコい~い!」
「思ってんなら気持ち込めてくれる? 棒読みじゃねーか」
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