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第12話
俺があんまり周りに関心なかっただけで、清瀬先輩ってやっぱり有名人なんだな。
見知らぬ男と一緒に帰ってるところを目撃されただけでこう色々聞かれるんだから。
…先輩大丈夫かな。色々聞かれて困ってないかな。
ショートメール送っといた方がいいかな…。
話題を変えた万亀と駄弁りながら、俺はスマホを操作して清瀬先輩にショートメールを送ることにした。
昨日一緒に帰ったのを観ていた友人から色々聞かれたから、お互い真下先輩と知り合いだったから、って答えてあることと、嫌な気分にさせていたらすみません、とお詫びを添えて送信した。
先輩からはすぐに返事が来た。
『こっちは特に色々聞かれたりしてないよ。全然嫌な気分にはなっていないし、むしろ万谷くんに迷惑かけたんじゃないかな。ごめんね。』
なんてことだ。
「千景? どした?」
スマホの画面を見たまま固まった俺を見て、万亀が不思議そうに声をかけてくる。
すまん、万亀。それどころじゃない。
先輩に謝らせてしまった。
「ちょ、悪い。電話かけてくる」
「あいよー」
始業前のざわざわした廊下へ出て、清瀬先輩へ電話をかける。これはあれだ、直に話さないと誤解を招いてしまうやつだ。
『あっ、えっ、もしもし?』
清瀬先輩の驚いたような声が、スマホから聞こえた。
「あ、先輩おはようございます。あの、今 電話大丈夫っすか?」
『うん、大丈夫だけど…どうしたの?』
「あの、すみません。メール、先輩に謝ってもらうようなことは何もなくて…迷惑とか、全然、ないんで。先輩は俺なんかに謝らなくていいんですよ。っていうことをですね、すみません、何か勢いで…かけちゃいました…」
あ、冷静になったら恥ずかしい。
自意識過剰だ。
「そういうわけなので! では、」
『万谷くん』
「…はい?」
切ろうとしたら先輩に名前を呼ばれて、思わず変な声が出た。うわ、これも恥ずかしい。
穴があったら埋めてくれ。
『あの、上手く言えないんだけど、少なくとも俺は昨日 万谷くんに会えて良かったと思ってるし、それで迷惑もしてないし、一緒にいて楽しかったのも事実だし、だから、"俺なんか"って言うのは、やめてね。昨日ずっと胸が重い感じがしてたの。でも、万谷くんと一緒に帰ってたら、そんなのなくなってたから。全然、"俺なんか"じゃないんだよ』
先輩の声は穏やかで優しくて、鼓膜を通ってじんわりと胸を温かくした。
「…ありがとうございます。これ以上褒められたら俺が調子に乗るんで」
『ふふっ』
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