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第15話
ただの後輩、って返す声を背中に、俺は玄関への階段を下りた。
靴を履き替えて外に出ると、そこには見知らぬ人が立っていた。
え、っていうか邪魔なんですけど。
と思いながら見上げる。…この人でかいな。
俺176あるけど…176の男が見上げるでかさってどうよ。
「あの…?」
何か用ですか?と、言外に伝えてみる。
その人はじろじろと俺を見たあとで口を開いた。
「お前 昨日、清瀬と帰ってたやつだよな? どういう関係?」
初対面のやつに高圧的に出る大男にろくなやつはいない。多分。
「知り合いですけど? 気になるなら清瀬先輩に聞いてみてください」
どうせあんた度胸もなくて聞けなかったんだろ。って思うけど言わない。
余計な諍いは避けるのだ。
「…付き合ってるわけじゃないんだな?」
「はぁん?」
やべ。驚いて耳の遠いおじいちゃんみたいな反応になったわ。
「え、そんな風に見えました?」
「…清瀬が、楽しそうに笑ってたから…」
声小せぇな。あんなに態度でかかったのによぉ。
っていうか帰りたい。
「付き合ってませんよ。清瀬先輩と俺とじゃ釣り合わないでしょ」
「確かにな!!」
ここだけ声でけぇな、このやろう。
「話それだけですか? じゃ、さよなら」
「いやいや、駅までだろ? 一緒に帰ろうぜ」
「いやいや、初対面なのに肩組んでこないでください。パーソナルスペース」
「いやいや、聞きたいこととかあるんだよ」
「いやいや、俺そこまで清瀬先輩と親しいわけじゃないっすからね?」
「いやいやいやいや」
「いやいやいやいや」
何だこれ! コントか!!
「コントみてぇだな…」
「くそつまんないコントっすけどね」
肩からその人の腕を払って言う俺。
「…清瀬ってさぁ、あんまり笑わねーのよ」
「何すか、急に」
「まぁ聞けよ」
「どこの誰とも知らない人の話を何で聞かにゃならんのですか」
「2年2組、志野木田 幾(しのぎだ ちかし)だ」
「……武士みたいな名前っすね」
「よく言われる」
よく言われるんだ。
「…1年3組の万谷 千景です」
名乗られたのに無視はできない。ため息混じりに自己紹介する俺。
「八百万の万か? なかなかめでたい名前だな」
「はぁ、どうも」
八百万のって言われたのは初めてだけど。
「それで? シノギダ先輩は清瀬先輩が好きなんですか?」
「まぁ結論をそう急ぐな」
「結論は急いでないですけど早く帰りたいのは確かです」
「えぇ…ハッキリ言うじゃん…」
何でちょっと引くんだよ、この人。
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