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第17話
褒められたのは、素直に嬉しい。けど。
「清瀬先輩とは昨日が初対面です。それに、清瀬先輩が俺みたいな冴えないの選ぶわけないでしょ? 付き合ってた相手、真下先輩っすよ?」
「真下だからこそ、違うタイプを選ぶってこともあるだろう」
「……それは確かに」
なくはないな。
「その辺は置いておくとして、清瀬が笑ってるの見たのはすごくひさしぶりなんだ。だから、少なくとも清瀬はよろずやのことを気に入ってはいる。恋愛感情ではないと思うが。恋愛感情ではないと思うけどな」
「何で2回言った? 分かってますよ、それくらい。俺はちゃんとわきまえる男ですから」
「ならいいけどな」
ちくりと胸が小さく痛んだのには、気づかない振りをした。
身の丈に合わないことを望んではいけない。昨日のことは、あれで終わりの出来事だから。
「安心してください。俺と清瀬先輩は、昨日の関わりだけで終わりです。会う理由がない」
「そうか。まぁそうだな」
そう。
真下先輩に言われたから会っただけ。俺の勝手な同情だっただけ。それも厚かましいものだったけど。先輩にしてみれば、大きなお世話、ってとこだろう。
これ以上、会う理由がない。
駅に着いて、シノギダ先輩とはそこで別れる。
昨日と同じように電車に揺られながら、ツキツキと痛む胸に蓋をした。
バカか。これはただの憧れであって、恋じゃない。
俺なんかが、想っていい相手じゃない。分かってる。
「ただいまー」
会う理由がない。そう何度も言い聞かせながら帰って、家のドアを開けた。
「おかえり。あんた借りたハンカチにアイロンかけといたから、明日ちゃんと返しなさいよ」
リビングで母親にそう言われ、俺はハタと気づいた。
………ハンカチ、借りてた…。
俺がカフェオレ吹き出したから、汚しちゃったから、借りてた…。
「……マジか」
「はぁ?」
「いや、ありがと。かーちゃん」
うわ、マジか。忘れてた。
昨日の関わりだけとか言っておいてまだ接点あるじゃんアホか。
え、どうしよう…。
クツ箱に入れとく…のは、いくらなんでも失礼だよな。
でも呼び出したら舌の根も乾かないうちに、とか、シノギダ先輩に怒られそう。
清瀬先輩に連絡取って、早いうちに返そう。シノギダ先輩、幼なじみとか言ってたけど、朝一緒に来てたりするのかな…。
それなら、清瀬先輩呼び出して来てもらうより、シノギダ先輩の目の前で返した方がいいか。
そしたらふたりで会ったことにはならないもんな、うん。
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