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第22話

万亀の言うことには一理あって、比較してみればいい。 人を比較するのはすごく失礼なことだけど、何が言いたいかと言うと、すごく可愛いと評判の子を見れば何か分かる…もしくは何か変わるんじゃないか、ということ。 なので、土曜日の今日、俺は多分他の人たちとは違う目的でもってこの場へ来ていた。 「あ、千景こっちー。おはよー」 バーミャンの前で手を振る万亀。その周りには、5人くらい見知った顔のやつらが集まっていた。 「はよ」 もう11時だけど。 「千景って意外と私服のセンスいいよね」 「あ、これ? 全部兄ちゃんのお下がり」 「お兄さんのセンスがいいだけか」 「そういうことだ」 俺こういうのよく知らんもん。 兄ちゃんは帰省してくる時に何着か服を持ってきて俺にくれたり、買い物に引っ張り出したりしてくれる。 デザイン系の学部通ってるし、そういうのに興味があるんだよな。 「そろそろ着くって」 万亀の先輩(俺もよく知っている)がそう声をかけた時、向こうに一段と華やかな集団が見えた。 多分、あの人たちかな。 「シンくん、お待たせ!」 駆け寄ってきたこの人が先輩の彼女。その後ろにいる女の子たちの中に、とびきり可愛い子が確かにいた。 黒目勝ちなぱっちりした目に、通った鼻筋。ふっくらとした唇は、決して派手ではないピンク色が引かれていた。 「あの子めっちゃ可愛いね」 「確かにそうだな」 可愛い。確かにすごく可愛い。 なのに俺の胸はうんともスンとも言わなかった。何で? ドキドキしろよ。可愛いだろ。 「とりあえず中入ろっか」 先輩に促されてファミレスの中へ。みんながソワソワする空気の中、俺は自分がポンコツなんではないかと思っていた。 席に案内されて、ドリンクバーと、それぞれ1品ずつ昼食を頼む。 料理が来るまでの間みんながソワソワしながら会話しているのを、俺いま何でここにいるんだろうなぁ…、っていう心境で見てしまう。 「千景めっちゃやる気ないよね」 万亀にバレた。 「いや、自分でもびっくりしてる」 「え、やる気のなさに」 「うん」 何か…思ってたのと違う。もうちょっと自分のテンションに変化あるかと思ってたけど全然だし、何なら自分のポンコツさにテンション下がってきてるしね。 「ちょっとトイレ行ってくるわ」 「えっ、このタイミングで?」 「うん」 テーブルのみんなに断って席を立つと、特にもよおしてないけどトイレへ。

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