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第25話

清瀬先輩がびっくりした顔で俺を見ている。 その表情も初めて見る。胸がぎゅっと苦しくなるのを感じていた。 「えぇと…」 やばい。何言おう。 「あの、俺…俺が、何かしてたら、ちゃんと言ってくださいね」 「え」 「気のせいならいいんですけど、その…淋しそう、だったから。えっと、そう、俺ごときが何かしてたらシノギダ先輩に怒られるし」 「…シノくん? 何で?」 「先輩のこと心配?してたし」 「そっか…。あの」 「はい」 伏し目がちな先輩も可愛い。 ――じゃなくて!! 「たまにでいいから、会ってくれる…?」 「え? は、え、はい。はい?」 え、何? いま何て言われたの? 俺の混乱をよそに、清瀬先輩はふわりと頬を染めて綺麗に笑った。 「ありがとう」 「はぁ、え? なん…」 何これ。何? 何が起きたの? 現実? 頭が混乱したまま、俺はテーブルに戻る。 頭の中では、見たばかりの清瀬先輩の綺麗な笑顔がぐるぐるしていて。どんどんどんどん心拍数が上がって。 うわ、俺やばい。 それしか思わなかった。 会話に入る予定もなければそんなつもりもなくて、適当に相づちを打ちながら運ばれてきたメニューを口に運ぶ。具だくさんのつけ麺をずるずるすすりながら、味がしねぇ…、と思っていた。 いや、味はするんだけど、旨いとか不味いとか(不味いはないけど)そういう感じが抜けちゃって、ただ摂取するだけになっちゃってる感じ。 頭がお花畑になってるから。 「千景、この後カラオケ行くみたいだけどどうする?」 万亀に聞かれて、俺はそっちを見た。 万亀の向こうにいる、めちゃくちゃ可愛い子と目が合った。 「あ、さっき知り合いに会ったから、そっち行くわ」 「そっかぁ。じゃあ俺も…」 「来ないの?」 鈴を転がすような声ってこういう声のことを言うんだろうか。 そう思うくらい、澄んだきれいな声だった。 その声は、奥にいるめちゃくちゃ可愛い子から発せられた。 「あー、うん」 声まで可愛いってもはや反則の域じゃん。 「そっかぁ…残念…。まだ全然話してないからお話してみたかったな…」 そういうところを『上手い』と思ってしまうあたり、俺は性格が悪いと自分でも思う。 「俺にはちょっとハードルが高い感じがするかなー」 笑って誤魔化す。 「そんなことないよ。話してみないと分からないことって結構あると思うし」 にこりと笑うその表情を可愛いと思う。でもそれは、俺にとってその他大勢への『可愛い』と一緒。 1番は、どうしたって清瀬先輩なんだ。

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