25 / 81
第25話
清瀬先輩がびっくりした顔で俺を見ている。
その表情も初めて見る。胸がぎゅっと苦しくなるのを感じていた。
「えぇと…」
やばい。何言おう。
「あの、俺…俺が、何かしてたら、ちゃんと言ってくださいね」
「え」
「気のせいならいいんですけど、その…淋しそう、だったから。えっと、そう、俺ごときが何かしてたらシノギダ先輩に怒られるし」
「…シノくん? 何で?」
「先輩のこと心配?してたし」
「そっか…。あの」
「はい」
伏し目がちな先輩も可愛い。
――じゃなくて!!
「たまにでいいから、会ってくれる…?」
「え? は、え、はい。はい?」
え、何? いま何て言われたの?
俺の混乱をよそに、清瀬先輩はふわりと頬を染めて綺麗に笑った。
「ありがとう」
「はぁ、え? なん…」
何これ。何? 何が起きたの? 現実?
頭が混乱したまま、俺はテーブルに戻る。
頭の中では、見たばかりの清瀬先輩の綺麗な笑顔がぐるぐるしていて。どんどんどんどん心拍数が上がって。
うわ、俺やばい。
それしか思わなかった。
会話に入る予定もなければそんなつもりもなくて、適当に相づちを打ちながら運ばれてきたメニューを口に運ぶ。具だくさんのつけ麺をずるずるすすりながら、味がしねぇ…、と思っていた。
いや、味はするんだけど、旨いとか不味いとか(不味いはないけど)そういう感じが抜けちゃって、ただ摂取するだけになっちゃってる感じ。
頭がお花畑になってるから。
「千景、この後カラオケ行くみたいだけどどうする?」
万亀に聞かれて、俺はそっちを見た。
万亀の向こうにいる、めちゃくちゃ可愛い子と目が合った。
「あ、さっき知り合いに会ったから、そっち行くわ」
「そっかぁ。じゃあ俺も…」
「来ないの?」
鈴を転がすような声ってこういう声のことを言うんだろうか。
そう思うくらい、澄んだきれいな声だった。
その声は、奥にいるめちゃくちゃ可愛い子から発せられた。
「あー、うん」
声まで可愛いってもはや反則の域じゃん。
「そっかぁ…残念…。まだ全然話してないからお話してみたかったな…」
そういうところを『上手い』と思ってしまうあたり、俺は性格が悪いと自分でも思う。
「俺にはちょっとハードルが高い感じがするかなー」
笑って誤魔化す。
「そんなことないよ。話してみないと分からないことって結構あると思うし」
にこりと笑うその表情を可愛いと思う。でもそれは、俺にとってその他大勢への『可愛い』と一緒。
1番は、どうしたって清瀬先輩なんだ。
ともだちにシェアしよう!