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第29話

そうされてたから笑えなかったんじゃないか、って俺だって思ったじゃん。 普通に話して、遊んで、とか。そういうの、そりゃ先輩だってしたいよな。 「おぉ?」 八月朔日先輩が俺を見る。 「いや、おそれ多い感はすげーあるんですけど」 「全然おそれ多くないよ?」 「あるんすよ…。けど、何かそういうのは違うじゃないっすか。あー…その、真下先輩のせいできっかけあんなでしたけど、清瀬先輩と話すの、俺すげぇ好きっすよ」 告白じゃないのに、すげぇ緊張して…! 手汗…!! 心臓うるせぇぇえ…!! 「万谷くん…。へへ、ありがとう…」 泣き笑いみたいな先輩の表情が、ズドン!!と胸をぶち抜いた。 あ、これはもう手遅れだ。 完全に、恋に落ちた。 「万谷くん…いい子…!! よかったねぇ、すいちゃん!」 「俺いまは千景のこといい男だと思った!!」 「万亀はでけー声で『今は』とか言うな。嘘でも『今は』を抜いてくれよ」 「あっ」 素だよ、この子。 「あのっ、じゃあ万谷くん、LINE交換してくれる?」 「へあ!?」 「え、そんなびっくりする…?」 「万谷くんの今の反応、家の犬みたいだったよ」 「え、八月朔日先輩 犬飼ってるんですかー? 俺も俺も! 家はねー、ハスキー飼ってるんですよ!」 「マジー? 写真ある? 俺ん家はねぇ、セントバーナード」 「えー! 見たいです!」 そんで万亀たちは犬トーク始めてんじゃないよ。俺を何とかしてくれよ。 恋心自覚したばっかの相手からLINE交換しようって言われてすげぇ動揺してんだよ。 どうすんだよ、俺。 これ諦めつくかな!? 「あ、え、俺…え、いいんすか?」 「ダメなの? LINEならショートメールより連絡取りやすいし」 「そ、え、そう、ですね…?」 流されるままに、清瀬先輩とLINEの交換をする。 いいのか俺。 「俺も連絡するから、連絡してね」 「はい」 はいとか言っちゃってるよ! いやでも今のは『はい』以外の選択肢はなかった! …でも、清瀬先輩が次の人と付き合うまでのつかの間の何かそういう…そういうアレだよね。 俺で元気になってくれんなら、それって本望じゃん。 うん、それで充分。 「じゃあ先輩、今度どこか遊びに行きましょうか」 それくらい思い出もらってもバチは当たらない、よな…? 「ふ…ふたり、で…行く?」 「ほぁ? えっ、あっ、や、このメンバーでもいいですし…!」 俺ごときが! デートに誘ったみたいになってるね!! やばいね!!

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