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第32話

清瀬先輩が好きで、だけどそれ以上は望まないと決めている。 でも、欲が出るのは仕方ない。 次の土曜日に一緒に出かける約束をしていても、それより前にチャンスがあれば話だってしたいし、途中まででも一緒に帰ったりしたい。 付き合ってない俺がこんな風に思うんだから、真下先輩と付き合ってた清瀬先輩が水曜日以外にも会いたいって思うのは当然のこと、だよな。 「それでね、その時 史生くんが…」 その清瀬先輩は、今俺の隣で可愛く微笑みながら話をしているわけですが。 先輩の唇可愛いな…。って、どこ見てんだ俺! 先輩への気持ちを自覚してから、俺はふとした瞬間に真下先輩のことを思うようになっていた。まぁ、そうです。嫉妬です。 俺の好きな相手を『いらないからあげる』って言ったことにもムカつくけど、そうじゃなきゃ清瀬先輩とは会えてなかったと思うとさらにムカついてどうしようもない。 清瀬先輩とどこまでしたのかな…、っていうのも……すごく気になるけど聞きたくない。 羨ましい。でも腹が立つ。 ぐるぐると、醜い感情がとぐろを巻く。 けど、な。 付き合ってもない、気持ちを伝えてもいない俺に、そんな権利はない。 「八月朔日先輩ってほんと楽しい人ですね」 汚い醜い嫉妬を押し隠し、清瀬先輩に笑って見せる。 「そうでしょ? 一緒にいると飽きないよー」 「いいなぁ…」 そんな風に言ってもらえる八月朔日先輩が。 「…史生くんのこと、あの、あれなの?」 「えっ?」 清瀬先輩が俺を見上げている。 「あれ、とは…?」 「いいなぁ、って言ったから…。えっと、その、好き…なのかな、って」 「す、いや、まぁ…そう、っすね」 「そ…、なの…?」 「人として好きっていうか…えーっと…」 そういう意味の『いいなぁ』じゃなかった上に俺が好きなのは清瀬先輩なんだけどな。 そんなことは言えないから、えっと…何とか誤魔化せ、俺。 「あのー、楽しいですよね。この前の土曜日が初対面でしたけど全然緊張とかしなかったし、万亀も何かすげー懐いてあれから毎日LINEしてるみたいだし、何かこう…とっつきやすい、っつーか」 「……そう」 あれ? 先輩むくれてる? そんなとこも可愛いな…。 「………俺にはすごい緊張してたもんね」 違う! 拗ねてる!! か…ッ、可愛い!!

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