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第38話

今度 谷口先輩の顔見たら殴らない自信がないな。 「…俺のせいで嫌なこと言われたりしたら、教えてくださいね。相手が谷口先輩だろうが誰だろうが、マジで殴りに行くんで」 「万谷くんにそんなことさせられないよ」 清瀬先輩は笑った。 悲しい笑い方じゃなくて、ほっとしたように。俺はそれが嬉しかった。 あぁ、よかった。俺はまだ、この人を笑わせることができる。 「あのね、清瀬先輩。先輩は、何度も言うけど、美人だし、可愛いし、やっぱり高嶺の花って感じが俺にはずっとあって、けど、話すと楽しいし……その、笑ってくれると、すげぇ嬉しい、です。シノギダ先輩は、1回先輩が傷ついてんの見てるから、相手が真下先輩だったから、俺は後輩だから、それで…心配してるんだと、思うんすよ」 何か自分でも何言ってるか分かんなくなってきてるけど。 「俺、先輩が俺のせいで嫌な思いすんのは、嫌です。だからほんとは、ちゃんと距離取ろうと思ってたんすけど…あー、その、何だ…先輩といるの、楽しくて…そこまで頭回んなかったっす。すみません」 「何で謝るの? 俺、別に周りから何も言われてないし、万谷くんのせいで嫌な思いもしてないよ。っていうか、シノくんが万谷くんに謝るんでしょ! こんな…涼輔や谷口くんと違って誠実な人なんだから」 ごめん、先輩。 全然誠実じゃない。先輩への恋心を隠したままそばにいたいと思ってる、ズルいやつです。 「史生くんだって、万谷くんのことすごくいいこだって言ってたじゃん。涼輔とは全然違うって言ってたじゃん!」 「…清瀬への下心がないとは言い切れないだろうが」 「すぐそういう風に考えるのやめて! 万谷くんに失礼だよ。せっかく仲良くなれたのに距離取られたら悲しいよ…」 「そんなことしません! もう考えません!」 「おい万谷!」 だって先輩が悲しそうな顔したんだぞ!! 耐えられるかそんなの!! シノギダ先輩より清瀬先輩が大事だ。先輩の心の安定が大事。 「…シノくん、心配してくれてありがとう。でも、もう懲りたから大丈夫。涼輔とのことも、ちゃんと…思い出にしたし、大丈夫だから」 多分。多分なんだけど、シノギダ先輩は、清瀬先輩の隣が俺なのが嫌なんだよな。綺麗なものの隣には綺麗なもの置きたい、って言ってたしな、前。失礼極まりねぇけど。

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