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第39話
でも俺は、清瀬先輩がいいって言ってくれるから、それに甘えていたい。
「だから万谷くんに謝って」
あ、そこは譲らないんだな。別にいいのに。
シノギダ先輩は嫌そうに俺を見た。腹立つくらい正直だなこの人。
「…万谷、済まなかった」
「ほんとですね」
全然済まないとか思ってないくせに。顔が全然済まない顔してない。
「…今日のことは史生くんに言いつけるから」
「何だと!?」
え、何。何そのシノギダ先輩の反応。気になる。
八月朔日先輩に言いつけられるとどうなんの?
「き、清瀬、それはやめよう。な?」
「やだ」
先輩の『やだ』可愛いな。
「頼む! やめよう!」
「嫌」
万谷くん行こう、と促され、俺は焦っているシノギダ先輩を振り返りつつ清瀬先輩を追いかけた。
うん。強気な先輩も可愛い。
「…ごめんね」
ぽつ、とこぼれたのは、切なくなるような響きを孕んだ小さな声。俺の胸は、きりりと痛みを訴える。
「何で先輩が謝るんですか。俺、清瀬先輩には謝ってもらうようなことされてませんよ。むしろ俺こそ、すみませんでした。あの…自分の知らないところで勝手に距離取ろうとか、そういうの嫌ですよね。俺だって嫌だし、ほんとに、すみませんでした」
俺の知らないところで、清瀬先輩が離れようとしてたら…それを想像したら、吐きそうなくらい悲しくなるし息もできないくらい胸が痛くなる。
それはもちろん、俺が先輩のことを特別な意味で好きだから、なんだけど。先輩が俺のことをそうじゃなくても、仲良くなったと思ってたのに…って切なくはなるよな。
「…ほんとだよ」
返ってきた先輩の声は小さく揺れていて、俺の胸にまたギュッと絞られるような痛みが走った。
笑わせたい、って思ってたはずなのに。
「せん、」
「罰として、明日も一緒に帰ってもらうから、ね」
「それは罰じゃなくてご褒美ですね」
食いぎみな俺の返事に、先輩は「なにそれ」って笑いながら言った。
笑ってるのに泣いてるみたいで、俺にはそれが、すごく堪えた。何してんだ、俺。バカじゃん。
先輩は、真下先輩に『いらない』って一方的に言われて傷ついてたのに。なのに、距離が近くなった俺にまた『いらない』って言われた気持ちになったのかも知れない。
真下先輩のことをクズ呼ばわりしといて…最低だ、俺。
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