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第41話
「自分以外の誰かがいつも好きな人の近くに、しかも何人もいて、不安になるのは当たり前ですよ」
だから、こんなことしか言えない。
そんな自分が悔しかった。
何で真下先輩のことが好きだったとか、どこが好きだったとか、そんな話は聞きたくない。そう思うのは俺の嫉妬とワガママだ。
1度だけでも清瀬先輩の心を独り占めしたあの人が、今はひどく羨ましかった。
俺にはできないから。
「不安になって傷ついた清瀬先輩を見てたから、八月朔日先輩もシノギダ先輩も、心配してるんですよ、きっと」
「…万谷くんはお人好しだね、シノくんにあんなこと言われたのに」
「あー…確かに腹は立ちましたけど、清瀬先輩だし、仕方ないかな、って」
「俺だし、ってどういうこと?」
ツン、と唇を尖らせるその仕草が可愛くて仕方ない。
「大事にしたいんでしょ、先輩のこと。2人とも、清瀬先輩のことが大事なんですよ。俺だって、もし万亀が理不尽に傷つけられたら、もう傷つかないように見ててやらなきゃ、って気持ちになると思います。まぁ、あいつはそんな可愛らしいやつじゃないですけど」
万亀は、理不尽に傷つけられたら多分自分で怒鳴り込みに行くと思う。ふざけんじゃねぇぞ、っつって。
普段にこにこしてるけど、怒る時普通に怒るからな。俺より導火線は長いけど。
「…仲良しだね」
「まー何か波長は合います。気が楽だし」
「そっか…」
「清瀬先輩にとっての八月朔日先輩もそんな感じじゃないですか?」
「うん…まぁ、そうかも」
八月朔日先輩って誰とでも合いそうってか、合わせられそうだしな。例外の真下先輩はいるけど。
そんな風に話して歩いていれば、駅はもう目の前に。チャリを押してる俺は、改札前で先輩を見送る。
「遠回りしてもらっちゃってごめん」
「全然構わないっすよ。先輩と帰るの楽しいし」
「ありがと。…俺も万谷くんといるの楽しいよ」
頬を淡いピンクに染めて、先輩が花のように柔らかく微笑む。何回見ても、俺はこの笑顔にドキドキして苦しくなる。あまりの可愛さに抱き締めたくなる衝動を抑えて、俺も口の端を持ち上げた。
「ありがとうございます。気をつけて帰ってくださいね」
「万谷くんもね。じゃあ、また明日」
「はい」
ひらひらと手を振る先輩が、改札の向こうに消えていく。
俺も手を振りながら、そっと息を吐いた。
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