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第42話

先輩と知り合って、約10日。 まだ10日。だけどすっかり恋に落ちてどんどん魅力に溺れていく自分を自覚している。 俺やべぇな…、って自覚もある。ちゃんとある。 だけど想うのを止められない。 数多ある切ない片想いを歌った恋愛ソングに、んなことあるわけねーじゃん、とか共感もできず冷めた笑いを浮かべてた過去の俺に言いたい。 片想いの恋愛ソングに共感する日がくるぞ、と。 back numberの『恋』は俺の気持ちをよく分かってる。清瀬先輩を誰より想ってんのは、今日も明日も俺だよと言いたい。言えないけど。だってそんな俺 気持ち悪いもん。 気持ち悪いんだけどなぁ…。 どこかでセーブしないとヤバイのは分かってるんだけど、セーブ出来てたら恋愛ソングに共感しないわ。 この後は多分、失恋ソングに共感する日が来るんだろうな。 まぁでも、俺の情緒はそうやって大人になっていくんだよ。 そんな風に俺は情緒を育てながら、この10日間 清瀬先輩と他愛ないLINEをしたりたまに一緒に帰ったり、どんどん諦めがつかなくなりそうなことにも溺れていた。 まぁ、一番諦めつかなくなりそうなのは今日なんだけど。 今日は清瀬先輩と約束した土曜日。自分でもベッタベタだなー、って呆れるんだけど、楽しみなのと緊張とおそれ多さが相まって1時間前に待ち合わせ場所に到着してしまった。アホか。 アホだな。 見上げれば、空はきれいに晴れ、気持ちのいい青がどこまでも広がっていた。 空を眺めながら、俺はぼんやりと清瀬先輩を想う。 先輩のこと、多分ほとんど何も知らない。どこに住んでいるのかも、誕生日も、好きなものも。何も知らないのに、先輩は俺の心を掴んで離さない。そんなのはずるいと思うのに、先輩ならそれも本望とか思う自分もいる。 好きだ。 何気ない仕草とか、笑ったところとか、泣きそうに潤んだ瞳すら可愛いと思う。でも泣かれるのはすごく苦しくて堪えるから…笑っててほしい。俺なんかがそばにいたらいけないんだけど…欲が出る。 「…ダメだなぁ…」 何が、わきまえてる、だ。自分で自分に呆れてしまう。全然わきまえてない。欲まみれだ。 シノギダ先輩の顔が浮かんで、そう言えば、と思い出す。 あの後 清瀬先輩は本当に八月朔日先輩に話したらしく、八月朔日先輩から『チカちゃんがごめんね~。叱っといたから!』ってLINEが来た。

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