43 / 81

第43話

チカちゃん?って一瞬思ったけど、そう言えばシノギダ先輩の下の名前『チカシ』だったな、と思い至った。可愛い呼ばれ方だ。 空から視線を戻した時、「あれ~?」って声がした。俺の嫌いな声。 「…どーも、谷口先輩」 一番会いたくねぇよ、あんたに。清瀬先輩に会うための準備してきて、何で真っ先にあんただよ。…いや、でもここにまだ清瀬先輩がいなくてよかった。 「おはよう。久し振りじゃん」 「そっすね」 「最近全然 来ないね、屋上」 「階段上るのダルいんすよ」 「ふ~ん?」 ニヤニヤ笑いの先輩は、俺の隣に腰を下ろした。やめて。どっか行って。邪魔だから。 「ねぇ、最近3番さんと会ってんの?」 「それ先輩に関係あります?」 「いや?」 ってゆーか多分この人分かって聞いてるよな。 「惚れてんの? 結構一緒に帰ってるっぽいじゃん」 「え、先輩は惚れてる相手としか帰らないんすか? …友達いないとか…」 「おい」 凄味のねぇ凄み方するんじゃねぇよ、腰巾着。素直にそう言わなかった俺を褒めてあげたい。 「惚れてなくても一緒には帰るでしょ。ほんとすーぐそういう風に持ってくんだから。だから真下先輩に『お前は彼女ができないんだ』って言われるんすよ」 「最後はお前もブーメランだからな?」 うるせぇよ。 「で? 先輩ヒマなんすか?」 「うるせーな。暇じゃねーよ」 だったらさっさとどっか行けよ。 「待ち合わせ?」 「まぁな」 「へぇ~。彼女ですか?」 「……」 無言かよ。 「…涼輔の5番目」 「は?」 「押し付けられちゃって」 「え、また別れたのあの人」 「素直すぎねぇ?」 「これでも我慢してますけど?」 マジかよ…。って引いてんじゃねぇぞ、こら。 「清瀬先輩と別れたの先週っすよね」 「今週ってか昨日また別れたんだよ」 「で、新たなる5番目の恋人さんは既にいるんすね、この前みたいに」 「いや」 「えっ、じゃあ空きポジション?」 「サッカーみたいに言うんじゃねーよ」 まぁ、空いてるけど~。って先輩はぼやく。 「ってか、先輩素直に5番目の恋人さんと会うんですね」 「まー美人だし~? テキトーに遊んどけばいいんだよ」 分かってたけど最低だな、こいつ。 真下先輩ってそういう風に他の彼女も扱ってんだな。いらないからあげる、って簡単に言えちゃうんだもんな。

ともだちにシェアしよう!