46 / 81
第46話
あぁ、好きだ。
何度目か分からないそれを、俺はぐっと噛み締める。
「時間より早いけど、写真展行きましょうか」
「うん!」
谷口先輩がこの辺にいることは黙っておこう。だって清瀬先輩に嫌な思いさせたくないし。せっかく今日の写真展楽しみにしてたんだし。
俺が気をつけて見ていよう。あとモールには近づかないでおこう。絶対。
「今日見に行くのって、桐原 侑真(きりはら ゆうま)さんって写真家の人のなんだね」
目的地に向かって歩きながら、先輩がそう口にした。
「あ、そうなんですよ」
「文化会館のサイトに載ってて、それで桐原さんのSNSも見てみたんだ。上手く言えないんだけど、こう…ストーリー?が浮かぶような写真撮る人なんだなぁ、って…あ、俺の勝手な感想だけど」
「分かります! 1枚の写真から物語が見えてきますよね!」
「うん。万谷くん、ほんとに好きなんだね」
そう言って、先輩は柔らかく微笑んだ。あぁ、この表情もほんとに可愛い。すげぇ抱き締めたいけど、それは我慢だ。我慢ってか、やったら犯罪。
「先輩って、どこか行く時ちゃんと下調べするんすね」
「そんないつもはしないよ?」
「え? じゃあ何で今日…」
「それは…」
先輩が、少し恥ずかしそうに俯いた。
「…万谷くんが、好きって言ってたから…」
「ぐぅ…ッ」
胸が痛いくらいときめいた。今のはずるい。ずるいけど、すごく…嬉しい。
「そういうとこ、ほんとずるいくらい可愛い…何すか先輩、天使ですか?」
「えっっ?」
「あーやば…」
これはやばい。どんどん惚れるしかない。やばい。俺チョロすぎな自覚はあるけど、だってしょうがないじゃん。好きなんだ。
今この瞬間の俺の幸せを体現したら、それは清瀬先輩の形をしていると思う。
「…万谷くんは、たまにズルいよね…」
「ぅへ!?」
唇を尖らせた先輩が、ぷいっとそっぽを向く。
何その仕草。可愛いんですけど。
「俺、俺のどこが…?」
「…教えない」
ちょっと拗ねたような恥ずかしそうなその表情も愛おしすぎて、俺の胸は高鳴りっぱなし。忙しい1日になりそうだ。主に心臓が。
先輩のそういう表情を、この先もずっと独り占めしたい。
だけどそれは、俺には大それた願いだ。だから、望まない。
「清瀬先輩だって、俺にしてみればズルいですよ?」
「どこが?」
「んー…それはちょっと一言では」
一言にはおさまらないもんな。
ともだちにシェアしよう!