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第49話

「好きなものは?」 「き、えっと…」 あああああっぶな!! 清瀬先輩、って言うとこだった!! 先輩はものじゃなくて人だし!! 「写真とか、『ログオン』ってマンガが最近好きで…あと、いくら好きです」 「『ログオン』って…仮想の世界に吸い込まれちゃうやつ?」 「あ、そうです。それ」 「史生くん持ってたような…今度借りてみようかな」 「読みます?」 「え、貸してくれるの?」 「いいですよ。もちろん」 清瀬先輩と会う理由ができるし。 って思ってしまう俺はずるいし、情けない。理由とか、探さないと会えないのかよ。 「ありがとう」 「月曜日持ってきますね」 「楽しみにしてるね。万谷くん、いくら好きなんだ」 「回転寿司行くと、それしか食わない勢いです。先輩は? 好きなもの」 「俺はねぇ…」 つん、と上唇が可愛く尖る。柔らかそうなそれに、俺の目は吸い寄せられる。先輩のつんやりした可愛い唇ガン見するなんて我ながら気持ち悪い。 気持ち悪いけど見ちゃうんだよ!! 可愛いの引力が強いんだよ!! 「Mr.A っていうバンドが好き。芝元潤っていう作家さんも今結構好きで、あとは、あのね」 先輩はちょっと恥ずかしそうに笑った。 「アップルパイが好き」 「似合う…」 「え?」 やばい。心の声が洩れた。 「や、先輩のイメージって言うか…ぴったりだな、って」 「そう?」 「Mr.A ってあれですよね、確かボーカルがこっち出身の。この前テレビ出てるの見ました」 「そうそう。俺もそんなに詳しくなかったんだけど、ラジオやってるの偶々聞いて、それで好きになっちゃった」 「地元一緒だと親近感湧きますしね」 万亀がスマホに曲入れてた気がする。聞かせてもらおう。 「芝元潤は、この前 本屋さん大賞とった人ですよね」 「うん。読んだことある?」 「『人魚の夜』は読みました。すごい不思議な雰囲気の話だなぁ、って。童話じゃないけど童話っぽい…」 「うん、分かるよ。優しい話だよね」 先輩がふわりと柔らかく微笑う。 「先輩のおすすめってありますか?」 「えっと、そうだなぁ…『ある王妃の祝福』かな。読むなら持ってくるよ。マンガと交換しよ?」 「いいんすか? ありがとうございます。けど俺、読むのそんなに早くないっすよ」 「いいよー。俺何回か読んでるし」 にこにこと機嫌よく笑う先輩。普通に、自分がこの笑顔を守りたいとか思ってしまう。

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