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第52話

「そ、っんなの、初めて言われました…」 先輩の声が優しくて柔らかくて、バカな俺は勘違いしそうになる。落ち着けよ、心臓。冷静になれ、俺の頭。 「言い過ぎて、万亀に止められることとかあるし…イラッとするとダメっす」 「万谷くんて、人のために怒ってそう」 「え、そんなよくできた人間じゃないっすよ」 「そうかなぁ」 だって俺はずるい。先輩のことを考えたら、隣は別の相応しい人に譲るべきなのに。それが出来ない。 「でも、優しいよね」 「え」 「涼輔に振られた俺のこと、慰めてくれた。初対面なのに、話聞いてくれた。あれね、すごく嬉しかったから。ありがとう」 「先輩…」 「今日も、誘ってくれてありがとう」 「あ、や、その…俺も、ありがとうございます。すげぇ、嬉しいです」 2人して照れてしまって、視線を合わせるのも気恥ずかしくて。だけど、嬉しくて。うまく言えないけど、幸せだな、って思ってしまった。 先輩が俺に素直な言葉をくれる度、先輩への『好き』が大きくなっていく。小さく燃える炎に、少しずつ薪をくべられるみたいに。 その後俺たちは、何を言ったらいいのか分からなくてお互い無言だった。でもそれは、心地のいい沈黙だった。 清瀬先輩の空気をそのまま感じられることが、俺はすごく…嬉しくて温かくて…少しだけ、切なくて痛かった。 写真展はなかなかに盛況で、会場の入り口には列が出来ていた。 「もしかしたら、平日の方がゆっくり見れたかも知れないっすね」 「混んでるもんね。でも、これはこれで、待ってるのも楽しいよ。万谷くん一緒だし」 「ありがとうございます…!」 先輩は俺のトキメキキラーだ。ずるい。もう、心全部拐われてる。 列がゆっくり動くのに合わせながら、俺たちも会場に入った。混んでるからあんまり動くこともできず、そのまま壁にかかった写真を見ながら進む。もっと近くで見たいけど、今日は仕方ないな。また来よう。 「…あの写真きれい…」 「っそ、うです、ね」 思いの外 先輩の声が近くから聞こえて、心臓が大きく跳ねた。これ、振り向いたらキスできちゃうくらい近いんじゃ…! 「空ってあんな風に、色んな色が混ざった色になるんだね。不思議…」 きっと見てるのは、夕空の写真。オレンジ、紫、紺、青、ピンク、白、水色…本当に色んな色が混ざりあって、神秘的でどこかゾワゾワするような…何とも言えない不思議な空の色を作り出していた。

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