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第53話

清瀬先輩の体温がすぐそばにあることに気づいたら、もうそれしか意識出来なくなってしまって、大好きな写真家の写真を目の前にしているのに全然集中できなかった。 でも。 「写真展初めてだったけど、すごくよかったぁ。月の写真綺麗だったね。もっとじっくり見たかったなぁ。万谷くん、誘ってくれてありがとうね」 こんなご機嫌で最強に可愛い笑顔見れたからいっかな、って。 「俺も、喜んでもらえてよかったです。人少ない時にまた来たいっすね」 「あの、じゃあ…学校の帰りに、寄る…?」 「………いいんすか?」 「え?」 何で俺こんな……え、ご褒美? 何の? 2回も先輩とこんな…一緒に見に来ていいの? 本気? 「あ、ごめん。ひとりでゆっくり見たい、よね…」 「えっ、いやっ、違いますよ!? 俺、2回も先輩独り占めしてもいいのかな、って…思って…」 「……独り占め、してもいいよ。…万谷くんなら」 「ッ…、っぐ、ふ」 息詰まって…! 変な声出た! 胸を押さえたまま先輩を見ると、先輩は伏し目がちに俺から目を逸らして、恥ずかしそうに目尻を染めていた。その破壊力と言ったらもう。 「…先輩、天使ですか…」 尊すぎて直視できねぇ。 顔が熱すぎて、絶対真っ赤になってるのが分かるから両手で顔を覆う。 カッコ悪い。恥ずかしい。だけどすごく嬉しい。 「…じゃああの、来週、また誘っても、いいっすか…?」 「うん…。嬉しい」 可愛い。 大丈夫かな、俺。こんな一度に幸せを過剰摂取して。 この先ほんとに思い出だけで生きていかれる。 「えぇと…ちょっと早いけど、昼食べに行きます?」 「あ、うん。早い方がまだそんなに混んでないよね」 「ですね」 照れ隠しに強引に話題を変えて、食べる場所を探す。近くのファミレスに行くか、駅前のモックに行くか…モールは絶対行かねぇ。谷口先輩いるからな。 駅ビルで靴見るなら、このまま駅ビル行ってもいいんだけど…。 「万谷くん、100均の角のうどん屋入ったことある? この前 史生くんに教えてもらったんだけど、美味しいんだって」 「うどん屋あるんすね、あそこ。知らなかったっす」 「うどん好き?」 「好きです! 行きましょう!」 清瀬先輩に『好き?』って聞かれたら、俺多分何でも「好き」って答えそう。うどんはほんとに好きだけど。 先輩と食べるなら、きっと何でも美味しく思える自信がある。

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