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第56話
駅ビルは3階がメンズフロアになっていて、靴屋は2階と3階に1店舗ずつ入ってる。
「先に2階の靴屋行ってみてもいいですか? そんで3階回りながら先輩の服見たり、もう1つの靴屋も覗かせてもらって」
駅ビルの案内図を見ながらそう聞くと、先輩はにこやかに頷いてくれた。
「もちろんいいよ。俺の用事はついでだし」
「先輩の用事が『ついで』なわけないじゃないですか。むしろそっちが本命」
「万谷くん、真顔で冗談言ったら分かんないよ~」
冗談じゃないっす。先輩の用事が本命で俺の靴がついで。
「靴はどんなの買うの?」
「スニーカーっす。履きやすいやつ」
「色は?」
「あー、あんまりこだわりなくて。先輩選んでくれません?」
歩きながら図々しくもお願いしてみる。軽く言っとけば、これで断られても「ですよねー」って笑って流せるし。
「俺が選んでいいの? 何色がいいかなぁ」
あ、選んでくれるの? マジで? 言ってみるもんだ。先輩天使。
俺が密かに感動していると、先輩はすごく綺羅な目で俺を見ていた。
え、待って。先輩に見つめられたら心臓止まる。
「う~ん…カーキ似合いそうかなぁ。万谷くん、カーキ好き?」
「好きです。先輩が選んでくれるなら何でも好きです」
「え…っ、ちょ、それは…大げさ…」
先輩が照れたように目尻を染めて視線を逸らした。
可愛い。天使。
って言うか、こう…ほんのり赤く染まる感じがやっぱりすごい…あの、色っぽい…。
そんな目で先輩を見るな、俺。
「っあ、」
「うわっ、大丈夫っすか?」
急に躓いた先輩に慌てて手を伸ばして抱き止める。
うわ、先輩細っ。すげぇ華奢。ってかすげぇいい匂いする。この人ほんとに俺と同じ生き物かな??
「っご、ごめんねっ。あの、ここ、ちょっと段差あるんだね。ちゃんと見てなくて…」
「こういうちょっとした段差危ないっすよね。足痛めてないですか?」
名残惜しいけど体から手を離す。
「うん、大丈夫。びっくりした~…」
小声で『びっくりした』って言うの可愛い。ほんとに可愛い。いやでも怪我なくて良かった。
「あの、ありがとね」
「いえ、役得です」
「ふふっ」
本気なのに。
細いしめっっっちゃいい匂いした…!!
何あれ、天使の匂い?
今日の俺の脳内ダメじゃない? ヤバくない? 変態じゃん。
自分を落ち着かせながら歩いていれば、向こうに靴屋が見えてきた。
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