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第57話
「色々あるねぇ」
スニーカーの棚の前。俺より先輩が真剣に選んでいる。好きな人が自分の物を真剣に選んでくれるのって何かいいな。幸せ。
「カーキ似合いそうだな、って思ってたんだけど…このキャメルのもいいね」
清瀬先輩が手に取っているのは、シンプルなハイカットスニーカー。底は白いゴムで、本体は落ち着いた色合いのキャメル。履き口が一部黒いだけで、すごくシンプル。だけど内側はチェックの生地で、何て言うの? ちょっとオシャレ感もある。
ちょうどセールで値段も3000円しないし、いいかも。後は履き心地。
「万谷くん、こういうの好き?」
「シンプルなの好きっす。履いてみていいですか?」
「うん」
サイズは丁度いいし、少し歩いてみた感じも悪くない。
「…これにしよっかな」
「でももう1軒あるんだよね? そっちも見てからにする?」
「んー…」
でもあっちの靴屋ちょっと高めなんだよな…。けどもしかしたら、向こうもセールやってるかもだし。
俺は棚に目をやる。在庫まだ大丈夫そうだけど…。
「せっかくだし、これにします。買ってくるんで、ちょっと待っててもらってもいいっすか?」
「うん。じゃあこの辺にいるね」
「はい」
俺は靴の箱を片手にレジへ向かう。箱は邪魔になるから靴だけ出してもらお。
会計を済ませて先輩の所に戻ると、先輩はナンパされていた。男に。
嘘。そんなマンガみたいなことほんとにあんの? や、先輩ほどの美人ならあってもおかしくはないんだけど。
「ほんとに男の子? すごい綺麗じゃん」
「えー、確かめていい~?」
男の手が先輩の胸に伸びる。
「お待たせしました~」
咄嗟にずいっと体を割り込ませ、先輩をガード。良かった。天使が触られなくて。
「は? 誰?」
こっちのセリフなんだけど。そっちが誰だよ。
「先輩、知り合いっすか?」
「ううん。全然知らない」
表情がちょっと強張ってる。知らないやつに急に絡まれたらそりゃ嫌だよな。体触られそうになってたし。
「じゃ、俺らまだ用事あるんで」
「は? 邪魔」
日本語通じてないのかな、この人。英語で話した方がいい?
「行きましょう、先輩」
先輩の背中に手を触れて、店の出口へ。こういうのは無視するに限る。
「あんまりしつこかったら警備員呼んでもらいましょ」
こう言っとけばそこまで絡まれないでしょ。と思ってチラッと振り返れば、男たちは「うぜ」「だる」とか言いながらも追いかけては来なかった。
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