60 / 81

第60話

「高いね」 「ですよね」 あ、良かった。同じ価値観で。 いくつか店を回って、先輩は一番リーズナブルな店に入った。 「カーディガン欲しいな。ちょっと厚めのやつ」 「朝とか冷えるようになりましたもんね」 先輩水色似合いそうだな。 「学校で着るやつですか?」 そしたらベージュとかの方がいいかな。 「ん、学校で着るのもいいかも…」 このグレーに水色のライン入ってるのとか先輩似合いそう。間違いなく可愛い。 うち制服あるけど、カーディガンとかセーターは自由だしな。パーカーでもOKだし。 「先輩、これ着てみてください」 俺が見たい。 煩悩落ち着けたはずなのに全然だった。 「万谷くんって、いつもサイズ何着てる?」 「俺はLですね。一応、176あるんで。余裕ある方が好きですし」 「Lかぁ」 先輩は華奢だから、SかXSかな。サイズMからしかないや。 先輩は、Lだとおっきいな…って言いながらMサイズのカーディガンを手に取った。試着すると言うので、俺は試着室の前でスタンバイ。決して変態ではありません。 この店、試着室が奥の方にあって店内からはあんまり見えないんだよね。またさっきみたいなことあったら嫌なので。俺が。 「どうかなー?」 「かわっ…似合います」 まず口から出たのが『可愛い』は不味いだろ、と慌てて押し留める。 萌え袖が可愛いと思ったのは先輩が初めてかもしれない。女子がやってても、それ手ぇ洗いづらくないの?って思う俺だから。 「ちょっと大きいかな。変じゃない?」 「オーバーサイズいいと思いますよ。似合います」 「ありがと」 先輩は照れたように笑って、「じゃあこれにするね」と、着替えてレジへ向かった。 買い物が終わったら、一緒にいる口実がなくなってしまう。まだいたいのに。 じゃあ帰りましょう。って、俺からは言いたくないけど、先輩からも言われたくないな。そう思うのは、俺のワガママなんだけど。 「先輩」 「ん?」 「買う訳じゃないんですけど、ちょっとCD見てもいいですか?」 「うん、いいよ」 同じフロアの端っこ。CDショップを指差すと、先輩は笑って頷いた。 「Mr.Aのアルバムで、おすすめとかあります?」 「あ、えっとねぇ…」 何の口実もなく、隣にいられる権利が欲しい。 俺を見て欲しい、って、素直に言えたらいいのに。 貪欲になる自分が、怖くて醜い。だけど。 今、こうして先輩を独り占めできることが、泣きそうなくらい、嬉しい。 難儀だな、って。自分の中でもうひとりの俺が苦笑した。

ともだちにシェアしよう!