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第60話
「高いね」
「ですよね」
あ、良かった。同じ価値観で。
いくつか店を回って、先輩は一番リーズナブルな店に入った。
「カーディガン欲しいな。ちょっと厚めのやつ」
「朝とか冷えるようになりましたもんね」
先輩水色似合いそうだな。
「学校で着るやつですか?」
そしたらベージュとかの方がいいかな。
「ん、学校で着るのもいいかも…」
このグレーに水色のライン入ってるのとか先輩似合いそう。間違いなく可愛い。
うち制服あるけど、カーディガンとかセーターは自由だしな。パーカーでもOKだし。
「先輩、これ着てみてください」
俺が見たい。
煩悩落ち着けたはずなのに全然だった。
「万谷くんって、いつもサイズ何着てる?」
「俺はLですね。一応、176あるんで。余裕ある方が好きですし」
「Lかぁ」
先輩は華奢だから、SかXSかな。サイズMからしかないや。
先輩は、Lだとおっきいな…って言いながらMサイズのカーディガンを手に取った。試着すると言うので、俺は試着室の前でスタンバイ。決して変態ではありません。
この店、試着室が奥の方にあって店内からはあんまり見えないんだよね。またさっきみたいなことあったら嫌なので。俺が。
「どうかなー?」
「かわっ…似合います」
まず口から出たのが『可愛い』は不味いだろ、と慌てて押し留める。
萌え袖が可愛いと思ったのは先輩が初めてかもしれない。女子がやってても、それ手ぇ洗いづらくないの?って思う俺だから。
「ちょっと大きいかな。変じゃない?」
「オーバーサイズいいと思いますよ。似合います」
「ありがと」
先輩は照れたように笑って、「じゃあこれにするね」と、着替えてレジへ向かった。
買い物が終わったら、一緒にいる口実がなくなってしまう。まだいたいのに。
じゃあ帰りましょう。って、俺からは言いたくないけど、先輩からも言われたくないな。そう思うのは、俺のワガママなんだけど。
「先輩」
「ん?」
「買う訳じゃないんですけど、ちょっとCD見てもいいですか?」
「うん、いいよ」
同じフロアの端っこ。CDショップを指差すと、先輩は笑って頷いた。
「Mr.Aのアルバムで、おすすめとかあります?」
「あ、えっとねぇ…」
何の口実もなく、隣にいられる権利が欲しい。
俺を見て欲しい、って、素直に言えたらいいのに。
貪欲になる自分が、怖くて醜い。だけど。
今、こうして先輩を独り占めできることが、泣きそうなくらい、嬉しい。
難儀だな、って。自分の中でもうひとりの俺が苦笑した。
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