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第72話

手を繋ぎたい。好きだ、って伝えたい。 本当は、多分ずっと、そうしたいと思っている。度胸がないだけ。 だっせぇな、俺。 「…っせん、」 「あ。ねぇ、すいじゃん」 親しげに清瀬先輩を呼ぶ声。 顔を上げれば、そこには真下先輩がいた。 「……涼輔」 ぽつり。清瀬先輩が真下先輩を呼ぶ。俺はその声に温度を探すのが怖くて、ぐっと拳を握る。 真下先輩の名前が、まだ清瀬先輩の『特別』だったら嫌だ。って、思ってしまった。 そんな権利俺にはないのに。 「何の用だ」 ものすごく嫌そうな表情を隠しもせず言ったのはシノギダ先輩。 「お前には用ねぇんだけど」 「だったらさっさと行け。飯が不味くなる」 「すいに話しかけたらいけないわけ?」 「ただ単に目障りなだけだ。真下は」 めっちゃぶったぎるじゃん、シノギダ先輩。 「はぁ、うざ。ってか千景、仲良くしてんだ」 「おかげさまで。すげー仲良しです。ね、清瀬先輩」 「うん。すごぉぉく仲良し」 可愛っ…! 先輩ちょっと強気なの可愛い。強気な先輩もいい。 「仲良しだって。真下に用ないからどっか行ったら? クソ邪魔」 八月朔日先輩…。 「お前らさぁ、」 「羽虫煩ぇなぁ」 「……八月朔日先輩…?」 ほんとにマジで真下先輩のことすげー嫌いなんだ…。目が笑ってない。 「おい、」 「ちょ、先輩。あっち行きましょう」 真下先輩の声に怒気が滲む。俺は席を立つとそのまま先輩の背中を押してテーブルから離れた。 「おい、千景」 「落ち着きましょうよ。シノギダ先輩も八月朔日先輩もすげー怒ってんのに、あのままあそこにいたら、何て言うか、好奇の目で見られるだけっすよ」 「だから何だってんだよ」 「一番迷惑すんの清瀬先輩でしょ。ただ単に八月朔日先輩たちと真下先輩のケンカってわけじゃないんすから。それともそうやって傷つけたいんすか?」 「…千景、やけにすいの肩持つじゃん」 当たり前だろ。 「あのメンツで誰の肩持つって、そりゃ清瀬先輩しかいないでしょ。他みんな強いじゃないっすか。圧も口調も」 「圧は志野木田だけだろ」 それはそう。けど八月朔日先輩も目が強かった。多分あの3人なら、八月朔日先輩が一番強いと思う。ある意味で一番強いのは清瀬先輩だけど。 「何か伝言あるなら伝えますけど」 「はぁ~? 千景になんか頼まねーし」 ぶっ殺…おっといけない、殺意殺意。 ぶっ飛ばすぞ。俺だっててめぇの頼みなんざ聞きたかねーわ。俺の優しさだわコノヤロウ。

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