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第74話

ま、俺も言うほど慣れてはいないけど。 「俺は生意気って認識されてるから、何か言ったところで今さらどうこうならないしな」 そう言って、箸を手に取る。 「ふぅん? でもさ、もし何かされたらちゃんと言ってね」 八月朔日先輩がそう言ってにこりと笑う。 ……何となく、なんだけど。これ、素直に言ったらどうなるんだろうな…。ちょっと八月朔日先輩の笑顔が怖い。 …よっぽどのことがない限り言わんとこ。 「そ…ですね。そん時は甘えさせてもらいます」 その時が来ないことを祈ろう。 俺は手に取った箸で、清瀬先輩からもらったコロッケをざっくり割って口に運ぶ。 うま。味はきっといつもと変わらないんだけど、清瀬先輩からもらったという付加価値が旨味にプラスされているに違いない。 「あの…、万谷くん、ありがとうね」 「全然。構わないっすよ」 清瀬先輩の前では良いカッコしたい。って言うかまぁ、清瀬先輩が労ってくれるならどんなに苦労してもいいもんな、俺。ってかそれはもう『苦労』じゃねぇや。 あれ? これ重い? 「八月朔日」 「なに? チカちゃん」 チカちゃん。って隣で万亀が小さく呟いた。 気持ちは分かる。シノギダ先輩すげぇでかいもんな。なのに可愛い呼ばれ方してるもんな。 「修学旅行中しっかりガードしろよ」 「分かってるって~。任せてよ。近づいたら噛み付くから」 ほんとに噛み付きそうなんだよなぁ。言葉で。何せ羽虫呼ばわりしてたから。 「クラス違うのに同じコース回るとはねぇ。チカちゃんのクラスとだったら良かったのに」 「俺もそう思うけど仕方ないな」 「だよねぇ」 八月朔日先輩のほんとに嫌そうな顔。苦虫何匹噛み潰したんだろ。 「…史生先輩、ほんとのほんとに真下先輩嫌いなんですね」 「うん。今のところ世界で一番嫌い。でも万亀くんのことは好きだよー」 「えへへー。俺も好きですよー」 「2人、すごい仲良しだねぇ」 「すいちゃんも万谷くんと仲良しでしょ?」 「ん、んん、まぁねっ」 ちょっと照れてる先輩、最高に可愛い。俺も万亀や八月朔日先輩みたいに重くならずさらっと好きって言えたらいいのかな。でも俺の『好き』は恋愛の好きだから…軽く言える自信がない。重くなりそう…。 「って言うか万亀、下の名前で呼び合うほど仲良くなったんだな、マジで」 今さらだけど。 「え? うん。何かねー、話題尽きなくて。犬のことで!」 そう言えば犬の話題で盛り上がってたもんな、2人。

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