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第77話

そ、っか。 先輩が小さく呟く。 「…そっか。…うん、ありがとう。待ってるね」 ふわりと柔らかく微笑むその表情に、俺の胸は痛いくらい高鳴ったし、苦しいくらい嬉しくて堪らなかった。 だから周りのざわめきとか、そんなものは一切耳に入っていなかった。 先輩たちと別れて、俺は万亀と一緒に教室へ向かう。 「清瀬先輩って、ほんとに千景と仲良くなったんだね」 「どうした、急に」 「やー、だってさぁ、千景といるとすごくよく笑うから。俺、前に言ったじゃん? 清瀬先輩ってあんまり笑わないんだ、って」 「そう言やそんなことも言ってたな」 あの時は、そんなわけないじゃん。みたいなこと言ったんだよな、確か。 だって先輩、初めて会った時から笑ってくれたから。 「俺はさ、前に一緒にいさせてもらった時にも見てたから少々の耐性あるけど」 「耐性とは」 「えぇー? すごい美人の笑顔への耐性だよ。清瀬先輩は、何て言うの? あの…3Dゲームのキャラみたいに整ってるじゃん。繊細な芸術品みたいに」 「世界一分かる」 「芸術品って作り物じゃん。笑わないから余計そういう感じがあったと思うんだけど、さっきさ――食べてる時もだけど――千景と一緒にいると笑うから、見てた人皆びっくりしてたよ」 俺は思わず万亀を見た。 「千景は清瀬先輩しか見てなかったから気づいてないと思うけど」 あれ? ねぇ、これもしかして万亀に気づかれてない? 俺が清瀬先輩好きなこと。 「結構脈あると思うんだけど」 あ、これはもう確実に気づかれてるな。 「…言わないの? 先輩に」 「……万亀」 「何?」 「無責任に俺の背中押してないよな?」 「えっ、無責任かなぁ? うーん…でも俺確かに清瀬先輩のことあんまりよく知らないなぁ…」 でもさぁ。と、万亀は続けた。 「嫌いな人と一緒に出掛けないし、嫌いな人に冗談でも『迎えに来て』とは言わないでしょ。俺なら相手のこと嫌だったら絶対『予定ある』とか言って一緒に遊ばないし、行くにしても『じゃあ他にも誘お~』とか言って2人になんてならないし、絶対『迎えに来て』とか言わない。さっさと1人で帰る」 「それは俺もそう」 だってうざいもんな。 「清瀬先輩って、何となくだけど、そういうとこガード固そう。あの見た目だし、変に勘違いされたことあるんじゃないかなぁ。だから、その気がなかったらちゃんと断りそう。でも千景にはそうじゃないじゃん」

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