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第79話

万亀の方が清瀬先輩を理解しているようでちょっと嫉妬。万亀にそんな気ないのに。 恋とは厄介なものだ。 ま、先輩の話してもいいって言ってくれたし、これからは……これからも? 万亀に甘えさせてもらおう。 午後の授業が終わって、部活へ行く万亀と別れてから清瀬先輩へLINEを送った。すぐに既読がついて、教室で待ってると返事が来る。 放課後一緒に帰るの初めてじゃないのに胸のドキドキが苦しいのは、何かもう手遅れ感あるよな…。 玄関へ向かう人波に逆らって、先輩の教室へ。 中を覗くと、先輩は八月朔日先輩と楽しそうに話をしていた。シノギダ先輩はいないのかな? 声かけてもいいかどうかちょっと迷ったけど、 「清瀬先輩」と声をかける。 「あっ、万谷くん!」 こっちを向いて、パッと笑う先輩が可愛い。可愛すぎて目が潰れそう。 「じゃあ、史生くんまた明日ね」 「うん、またね。万谷くんもバイバイ」 手を振る八月朔日先輩に、俺も「さよなら」と手を振って、清瀬先輩と玄関に向かって歩き始めた。 「すみません、お待たせして」 「ううん。大丈夫だよ」 「シノギダ先輩はどこか行ってるんすか?」 「シノくん、今週週番なんだ」 「あぁ、それでいなかったんすね」 あ、そうだ。本渡さなきゃ。 「先輩、これログオンなんですけど…」 俺は持っていた袋の中身が見えるように、取っ手を両手でちょっと開く。 「ありがとう!」 先輩がひょいっと中を覗き込んだ時、いい匂いが鼻を掠めた。爽やかな中に仄かな甘さを孕んだ匂い。 それが先輩の匂いだと理解した途端、心臓がどくりと音を立てた。耳の奥に、鼓動が響く。やばい。先輩にも聞こえるんじゃないかっていうくらい、うるさい。 「万谷くん、これ、…」 先輩が顔を上げて俺を見た時、不自然に言葉が途切れた。 「あ、え、あの…大丈夫? えっと、顔…真っ赤だよ…?」 この人はもう!! 無自覚!! 分かってたけど!! 「っ、先輩」 「へ、あ」 「…近いです…っ」 「え」 パッと先輩の目尻に赤みが差して、先輩は俺を見上げたまま固まった。 ちょっと。可愛い顔晒したまま固まるのやめてください。 「っあ、えと、ごめんっ――わっ」 「先輩っ」 離れようとした先輩が足をもつれさせてバランスを崩して後ろに倒れ込む。俺は慌てて手を伸ばして、自分の方に抱き込んだ。 バサリと袋ごと本が落ちた音が、どこか遠くに聞こえた。

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