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第13話
夏休みが明ける前々日、8月23日の朝。
大荷物の直貴が我が家にやってきた。
あっけなさすぎるほどあっけなく、親が同意したのだ。
開口一番言ったのは、『それってお金かからないんですよね?』だったらしい。
そしてあれよあれよという間に手続きは済み、両親共に最後まで、どこへ引き取られるのかにすら興味を示さなかったそうだ。
そしてきょうに至る。
「朋之さん。改めて、よろしくお願いします」
「うん、こちらこそ。よろしくね」
荷物は雑に床に置いて強く抱きしめ、そのままキスをする。
直貴の滑らかな手が、僕のTシャツの背中側にするりと入った。
「気が早いよ」
「だってくっつきたい」
甘えたように言うのは、多分、不安でいっぱいだからだ。
そして僕はそれを、全身で受け止めてあげたいと思った。
あっけなく捨てられたこの子の傷に、しつこくしつこく、口づけてあげたい。
「シャワー浴びようか」
「うん。せっかく新しい生活になるから、全身綺麗に洗って、ここで厄落とししたい」
きのう、必死でカビを落とした浴室に入る。
全身を昂らせるようになでると、直貴は身悶えた。
ボディーソープを塗り付け、ツンと勃った小ぶりの乳首を、潰すようにこねる。
「ちょっと触っただけなのにね。乳首、気持ちいい?」
「ん、……ふぅ、はずかし」
「大丈夫。恥ずかしいの見てるの、僕だけだよ」
「ぅ……、ちんちん固くなっちゃぅ」
両手を下へ滑らせ、太ももや尻などを、決定的ではないなで方で刺激する。
「はぁ、……朋之さ、んっ……触って、」
「どこ?」
「ちんちん、……擦ってほし……」
僕はペニスに手を伸ばし、ゆっくりと擦りながらキスをした。
熱く絡まる舌をちゅるっと吸って、上あごをなぞる。
「ぁ、……あ、ぁ……っ」
僕に掴まろうとする手が滑って、力の抜けた体をそのまま僕に預けてきた。
「い、イキたい、んっ……ん」
「お風呂の中でイッちゃっていいの? きょうは何回イケる?」
「ん、いっぱいイクからぁ……、」
懇願するその目は、初めて抱いた日のような追いすがるものではなく、僕に愛されたいという熱望だった。
「あ……ぁあ、い、……イク、ぁあッ、んぁあ……!…………ッぁあ……!……!」
白い床に、精液が落ちる。
トロッとした顔のままの直貴の髪をなで、シャワーで洗い流す。
ざっと拭いて、そのまま横抱きに。
チラリと時計を見る。
11:30。
段ボールをよけて、眠り姫を扱うように、シーツを剥 いだベッドに寝かせた。
ローションを手に取り、上半身のあちこちにちゅ、ちゅ、と口づけながら、中をほぐす。
達したばかりの体は、前立腺を押す度に、ビクリビクリと跳ねた。
「あンッ、ぁあ……っ」
「気持ちいいね、ここ」
「んぅ……きもちぃ、ともゆきさんも、ぁ、はぁっ」
「ねえ、直貴。見える? 僕のこれ。直貴の可愛い顔いっぱい見て、興奮してる」
「……はぁ、すごい、エッチ、おっきい」
「うん。早く入りたいけど、まだもうちょっとね」
ゆるゆると指を出し入れすると、穴がヒクつく。
僕が散々教え込んだ快感を、期待しているのだろう。
腰も浮いて、甘ったるい声を漏らしながらねだるのが愛しい。
「も、挿れて、……奥、指じゃ届かないとこ、突いて」
自分で足を抱えて大きく開かせる。
「恥ずかしい格好して待ってるの、可愛い」
「ん、んっ……、はやく」
一気に挿れると、直貴は顎を跳ね上げて嬌声を上げた。
「ぁああッ」
「中、トロトロだよ。いっぱいエッチして、僕の形になったね」
「ん、んっ、はあ、あっ」
「……っ、直貴、これからどうなるか分かる?」
「と、もゆきさんと、幸せになる……っ」
「そうだね」
ぱちゅぱちゅと、粘性を伴ったいやらしい音が響く。
直貴は僕の背中を掻き抱き、何度も鳴いた。
「あぁ……っ、ん、んぁっ……はあ、朋之さん、すき、」
「うん。好きだよ、直貴」
奥を突きながら、ほんの数日後の未来のことを考えた。
この形が褒められたものかは分からないけれど、ふたりにとってはこれが最適解なのだと、信じている。
「あ、……も、だめぇ、やだ、イッちゃう……っ」
「いいよ、イッて。僕もそれで、ぎゅうぎゅう締め付けられてイキたい」
「っ、はぁ、……あ、イク、……っああッ!…………ああぁっ……!」
直貴の腹に、精液が飛ぶ。
手ですくいとって、イッたばかりのペニスを擦った。
敏感すぎる体が跳ねて、直貴は身をよじった。
「や、やだっ……ぁああッ!……ぁ、や、あああ!」
プシュッと潮を噴く。
目に涙を溜める直貴をめちゃくちゃに突いて、僕も果てた。
可愛くて、大切で、ずっと守ってあげたくて――
そんな気持ちに満たされる中、僕がついこぼしたのは、こんなひとことだった。
「……シーツ、詰めなければよかったね。びちゃびちゃだ」
「マットレスごとひっくり返しちゃえば、引っ越し屋さんも分かんないよ」
くすくすと笑い、抱き合う部屋は、がらんとしている。
壁際に積まれた段ボール。
あと1時間ほどで引っ越し業者がやってきて、僕と直貴を逃してくれる。
教員の僕と、教え子の中学生が幸せになる方法なんて、ひとつしかなかった。
恩師の言った通り、僕の与える優しさとやらは、猛毒らしい。
回りが早く、致死率も高く、解毒剤は売っていない。
ゆるやかに死にゆく、小さな愛しい存在を、僕は一生守ると誓った。
でも、その『一生』がどのくらいなのかを、この子は知らない。
僕の腕の中で、無邪気に笑っている。
「誰にも文句も言われず朋之さんと一緒に暮らせるなんて、夢みたいだなあ」
「直貴はずっとずっと、ひとりぼっちで暗いトンネルの中を歩いていたでしょ? でも、たくさん辛い思いをした分、僕たちは絶対幸せになれる」
手を繋ぐ。猛毒が回る。
塚原直貴は、ゆるやかに死んでいく。
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