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第2話 海風
「何してもいいってことか?」
なぎ倒された山百合に埋まり、遼太の腹の上にまたがるに俺に聞く。
頬に触れていた遼太の指が俺の口元に動いて怖くなった。
『抱かれたい』とか『セックスしたい』とか言ったくせに全然覚悟が決まっていない自分に気づいた。
遼太の問いに答えられない。
俺を様子を探る視線に堪えられなくなって顔を横に向けたら鼻先を白い花びらが掠めた。
視界に入るのは百合の奥深い花弁の底、匂い立つ強く甘い芳香。
花など手折らなくとも眺めるだけで十分なはずなのに、誘う意図があるのかのような美しい造形を晒し甘美な芳香を醸す百合に手が伸びた。
悠長に花を手折る俺にしびれを切らした遼太ががなり立てる。
「どうなんだよ、返事しろよ。」
「…。」
「友也が誘ってんだろ?」
「遼太が俺に誘われたなら、そうしてもいい。」
「俺が友也に誘われた?、何言ってるんだお前。」
「遼太が決めればいいと言う事、俺は従うだけ。」
「お前は頭が良すぎて何を言ってるからわかんねーよ、ちっ、なんで俺が男に手ぇ出さなきゃいけないんだよ。」
「そうだね、どうかしているよ。」
遼太の腹から降りようとした時、突然強い海風が吹いて来た。
風に煽られて音を立ててなびく百合、俺の耳を隠すほど伸びた髪もまた舞い上がり頬を打った。
風が止み、風が吹いた海の方向を見るとトンネルから出て来る自動車のヘッドライトがアスファルトを照らす役目を果たしていて夕刻を過ぎたことを知る。
急に頭が冷える俺、正常な思考が戻った。
言いたかった事を言えた爽快感と後悔が入り混じる。
全くバカな事をした、遼太ともこれで終わり、明日からはまた独りで、つまらない日々をこなすだけ…。
まあ…元々独りだったし、遼太はバカだから一週間もすれば俺の事なんて忘れるだろう。
よくよく考えれば、ここは学校の帰り道、道端で何をしているんだ俺達は…。
遼太を起こそうと伸ばした腕を引き寄せられた。
引き寄せられて視界に映ったのは彼の唇、何が起きているか分からなかった。
抱き寄せられて何故か頭の臭いを嗅がれ、「大丈夫、これなら大丈夫」と呟かられてから唇を押し当てられた。
驚いて体を強張らせると「従うんだろ?」と言われ力を抜いた。
俺の何が彼の手折る衝動を掻き立てられたのかは分からない。
まあ、いい。何故か望みが叶った。
望みが叶いながらも、どうかしていると揺れる百合を見て思った。
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