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第6話 葉桜
なんとなく夏休みが来て、「絶対知り合いに会わない所」に行く計画を立てるだけ立てて「南」か「北」を決めて「南」になって当日の早朝になった。
全然眠れないし「やっぱり無理」「逃げよう」と思い外に出たら、朝5時なのに家から出てすぐの歩道に見知った顔があった。
夏の清々しい朝の光を背に近づいて来たのは遼太。8時に最寄り駅で待ち合わせだったのに何故ここに居るのかと固まる俺に笑顔で話しかけて来た。
「おう!意外と遅かったな、もっと早いと思ってた。」
「…は…8時に駅だったよな。」
「そう、一緒に行こうかと思ってね。待ってた。」
「今、5時だけど。」
「ちょっと早く来た。」
…ちょっと所じゃない、いつから居たんだよ。
俺が逃げ出す前提で、家の前に居た?
行動パターンが読まれてる?
バカな遼太に行動を読まれる俺はもっとバカなのか?
頭を押さえる俺は「始発に乗れるぞ」と言われ、そのまま始発に乗ることになった。
無人駅なので誰とも会わないし、超ローカル線なので一両しか走っていない電車、夏休みなのもあって本当誰も居ないし乗ってこない。
二人きり過ぎて逆に緊張するというか、遼太はどうなんだろうと思い隣を見ると脚と腕を組んで寝ていた。
寝顔は初めて見るなと見てしまう俺。寝ている隙に停車した電車から逃げる選択肢もあったのに、結局は窓から見える延々と広がる緑の稲を眺めていたら乗り換えの駅に着いた。
家から乗り換えの県庁所在地がある駅までは1時間程かかり、そこから目的地までは2、3時間かかる。窓の外は田んぼと林と少しの民家、途中まで頑張って起きていた俺も疲れて寝てしまった。
「着いたぞ」と頬を突かれて目が覚めて、武家屋敷と枝垂れ桜が有名な観光スポットに辿り着いた。夏なので枝垂れ桜は咲いていない、青々とした葉が垂れ下がっている。
歴史を感じる武家屋敷の門と夏の枝垂れ桜、先を歩く遼太が振り返り「写真でも撮る?」と普通に聞いてくる。その様子がいつもと変わらない普通な感じなので意識している自分が恥ずかしくなった。
一応予定通り進んでいる、3時には予約している駅前のビジネスホテルにチェックインして一泊する予定。
親にも友達と一泊して遠出すると伝えてあるし、了解も貰った。
表向きは学生同士の思い出作り…。
全く問題ない…。
ここでは地元の知っている人には会っていない…。
全く問題ない…。
遼太もいつもどおり…。
全く問題ない…。
「全く問題ない」と自分に言い聞かせるほど、調子が悪くなるし、遼太の話す声も遠くなる。
ここまで来たなら開き直って、手でも繋ぐくらいする所なのに…。
それより、私服…これで良かったのかキッチリ目のシャツだし…遼太はすごくラフな格好で…。
遼太が俺にどこだったらいいかと聞くから「絶対知り合いに会わない所」だったら良いっていうことで、ここまで来たワケで…、遼太は本気なのか…?俺は…?
まずい…悩み始めたら迷いが止まらなくなってきた、景色とか観光どころじゃない。
「また何か悩んでるのか?」と問いが聞こえて足が止まった。
垂れ下がる葉桜の下には心配そうに俺を見る遼太。浮かない顔をしているはずの俺に声をかける。
「お前みたいなのをシリョ・ブカイって言うんだろうな。」
「シリョ・ブカイ…思慮深い…、そうかな?そうだったらここには来てない。」
「俺の勢いに流されちゃった?」
「どうだろう…。」
あまり寝てないから考えが纏まらないというか、自分がどうしたいのかが分からなくなってきた。
山百合の中に遼太を押し倒した時の俺と、今の俺は確実に心境が変わっていて、今の俺は何が欲しくてここにいるのだろうか。
ピピピピ‥‥
遼太の持つ携帯からアラーム音が鳴った。
突然の音にビクつく俺の手を取り「チェックインの時間だから、早く行こうぜ。」と告げた。
強引に手を引き走る遼太が振り向き俺に言う。
「友也、そう心配するなって、ちゃんと勉強して来たからさ。」
何を勉強したのだか不安だけど明るい調子で言ってくるから、悩んでいる俺がの方が逆にいかがわしい感じがする。
人目もはばからず俺の手を引き走る遼太、俺だったら絶対できない。
遼太は、いつも明るくて優しい。それは俺だけというワケでもない、平等で公平な明るさと優しさがある。
走りながらその光と優しさが欲しくて、ここまで付いて来た事を思い出した。
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