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第10話 求めるもの

「夜なんだけど。」 目を開けて暗くなった生徒会室で呟いた。 二回くらい射精したら異様に眠くなってしまい「ちょっと寝させて」と言った辺りから記憶が曖昧。 部屋が薄暗く確実に夜になっていた。焦って辺りを見渡した。 中途半端に着せられた服、俺の隣でスクールバッグを枕に寝ている遼太、時間は?と掛け時計を見ると7時を少し過ぎていた。 ペチペチと遼太の頬叩いて小声で起こした。 あくびをしながら口を開く。 「あ?起きた…起きるの待ってたら、俺も眠くなった。」 「…起こせよ、俺は一度寝ると結構起きない、ああっ、ホント夜だし…早く帰らないと。」 焦ってる俺に悠長に抱き着いて来たので、少しキレそうになった。 急いで自転車に飛び乗り自宅に戻ったのは8時少し前、俺の母親が帰るのが遅いと怒っていた。 帰るなり金切り声を上げられた。 「こんな遅くまで何をしてるのよ、あなたはっ!!」 「…ごめん、生徒会の仕事で遅くなった。」 (嘘だけど…) 「ご飯の時間が遅くなっちゃったじゃない、待たせないでよね、迷惑よ!!」 「うん、ごめん。」 7時には夕飯を始めたい母親、遅れると異常に怒る。 そうでなくてもヒステリックな女、自分が気に入らないことは容赦なく罵声を上げる。 反抗するのも面倒だから、怒らせないようにするクセがついた。 見た目は美人なのにキツイ性格、でも外面は良い。 「優也をご飯に呼んできて。」と言われ俺の4つ下の弟を呼びに行った。「ご飯だって」と言うと何も言わずに出てきた。 母親と弟、俺、家族3人の夕食が始まる。父親は数年前から近所の父方の祖母の家で暮らしている。離婚した訳ではなくて、母親が父方祖母との同居を拒んだ為、父親が祖母宅とこちらを行き来している生活をしている。 「家族で夕飯は絶対よ」と母親は言う、食事中は母親の振る会話が中心になる。 近所の人達の噂話やら、落ちも無い話を延々と聞かされる。まあ、父親が家に居ないこともあり大人の話し相手がいないのだからしょううがない。これは俺的には全然問題が無いのだが、どうしても許せないこともある。 それは、俺と弟を比べること。 見た目、成績、友達の数など優劣をつけて来る。 見た目は弟が良いと評価され、成績は俺、友達は弟、性格は弟の方が可愛いと言う。 母親から見たら、同じ兄弟なのだから悪い所は直しなさいという意味なのかもしれないがコンプレックスを刺激されて兄弟仲が非常に悪くなっている原因ということに彼女は気づいていない。 随分前から弟とは会話もしていない。俺から会話を持とうとしても避けられている。 母親が勉強が苦手な弟に「お兄ちゃんのように何故出来ないの」と繰り返し言うからだ。 苦手なものを克服するのには相当な努力が必要なのだが、弟は努力が続かないタイプなのを気づいていない。 俺はというと「弟のように明るくなりなさい、格好よくなりなさい、友達作りなさい」と言われる。 遺伝的なことを直せと言われても直しようがないので困る。 俺は母親ではなく父親に似ている。容姿も性格も父方の血を受け継いでいる。 黒い髪、背も高くはない、動物に例えるとタヌキ系の顔、大人しいけど口を開けば理屈っぽいと言われる。 弟は母親に似てシャープで軽薄な美人系、友達も多いらしい、中一で俺とほぼ同身長だからきっとまだ伸びるのだろう。 小さい頃から自分に似ている弟を可愛がっていた母親、俺も動物的本能から母親に愛されようと頑張っていた時期もあったが、心が満たされるような愛は得られなかった。 まあ、今は母親に愛されなくても良いとは思っているが、彼女は愛しもしないのに支配はしようとしている。 支配することで心を満たそうとする寂しい人なのかと思いもしたが、彼女の気質には耐えられない、一緒には暮らせない。 この街も嫌いだけど、母親も嫌い、だから東京の大学に行く。 母親の話を聞くだけ聞いて、今日の夕食が終わった。 風呂に入りタオルで頭を拭きながら自室へ戻るとスマホにメッセージが入っていて、遼太からだった。 遼太はマメな男だ、俺が返事をしようがしまいがメッセージを入れてくれる。全然たいした内容ではないのだけど、気にかけていてくれることは分かる。 ただ今日、生徒会室でしたことを思い出して壁に頭を打ち付けたくなった。 全く俺は学校で何をしているんだろう? ああ、でも遼太のメッセージを見ていると心が和む。 俺は従属したり支配されたりするのは嫌いではない、むしろその方が何も考えなくて良くて楽だと思う。 支配するなら形だけでも愛して欲しいと思っている。

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