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第11話 首輪

「首輪が欲しい。」 昨日出来なかった生徒会室の片づけをしている時、遼太に訴えた。 「首輪?」と首を傾げられた。 あれから色々考えて、遼太から首輪を付けて貰って支配されるが一番落ち着くと思ったからだ。 遼太には優しくしたいと思ってるのに、男とか長男とか同級生とか俺の方が成績が良いとかのプライドが邪魔をしてどうしても出来ない。 対等でありたいとも思うが、遼太は周りから見ても輝く存在で俺が遼太と同じ存在になることは絶対ない。 だったら、所有物として支配されている形をとってもらった方が自分を抑えることが出来るし、遼太に首輪を付けてもらうことで愛されている事を証明出来るような気がした。 怪訝そうな顔で「俺の犬にでもなりたいの」と聞かれ「そうかも」と答えたら「どうした?マジで言ってるのか」と驚かれ「うん」と答えたら本気で心配された。 そんな経緯で首輪を買ってもらえることになり、片付けは後回しにしてバイパス通り沿いのショッピングセンターへ行くことになった。 男二人でアクセサリーショップに入るのもどうかと思ったが、遼太が何も気にせず入っていくのでついて行った。 ショッピングセンターでは本と衣服しか購入したことが無い俺、初めて女性が入ると思われる雑貨店に足を踏み入れた。 壁一面にディスプレイされた細やかで繊細に輝くコールドやシルバーの鎖、美しく愛され好まれる形をしたペンダントトップが自分を選んでくれと煌めき誘う。 「これか?」と言われ遼太の指さす先に目を向けると黒いベルベット生地のチョーカーだった。首にぴったりと巻き付く形は首輪に近いが頼りない、もっとしっかりと頑丈なものが欲しい。 「もっと太くて壊れないのがいい」と言うと「ペットショップの犬用の首輪のこと言ってる?」と笑われた。壊れなければそれでもいいけど、あからさまに犬猫用はどうかと考えていると遼太がスマホを取り出し検索しはじめた。 「人間用 首輪」でヒットした画像はSМ調教の小道具ばかりで若干引きはしたが俺の理想とする形状だった。「こういうのがいい」と指さすとまた心配そうに顔を覗き込まれた。 別におかしくなっているワケじゃないし、SМ調教してもらいたいワケでもない。俺なりに正当な理由があるからだ。 ネット通販だと届くまでに時間が掛かるからと言って、とりあえずチョーカーを買ってくれると言う。ペンダントトップは無くても良かったけどシルバーの十字架になった。 後は付けてもらうだけと、店を出ようとした時、学校で遼太に取り巻いている女子達と鉢合わせしてしまった。 当然のように駆け寄ってきて愛想の良い遼太の腕に絡みつく彼女達、俺には「なんでここに居るの?」という視線を向けられて居ずらくなる。 「また、明日。」と言い残して、逃げるように後にし駐輪場に止めてある自転車に鍵を差し込んでいると「友也。」と名を呼ぶ声が聞こえ顔を上げたら息を切らせて走ってくる遼太の姿。 先ほど購入したチョーカーの紙袋を渡される。 チョーカーが欲しかったワケではない、遼太に首輪なりチョーカーを付けて貰いたかったワケで。 「今度時間のある時、遼太に付けて欲しい。彼女達の所に戻りなよ、変に思われるから。」 「女の子達には用事があるからって言ってきた、えっ…と何?俺が友也にチョーカーを付けるっていうこと?」 「そう、遼太に付けて欲しい。」 「自分で出来るだろう?変な奴…甘えん坊さんかっ?」 詳しく説明をするのも面倒なので「そうかな」と言うとゴソゴソと紙袋の中からチョーカーを取り出そうとしたので「ここじゃない所がいい」と伝えた。 遼太に「時間はあるのか」と聞かれ、「7時には家にいないと怒られる」と言うと少し考えてから「川近くにでも行こうか」と提案された。 俺と遼太の家の中間地点にある大きな川には大きな鉄橋がかかっている。川を超えると遼太の住む街になる。 土手から川に降りる階段下には遊歩道が長く伸びていて、整備されているところ以外は背の高いススキか葦が群生している。 夕暮れも過ぎようとしている時間なので、辺りに人影は見られない。 鉄橋を走る自動車は見えるけど、背の高い草の中にいるのが誰なのかまでは分からないだろう。 チョーカーを付けて貰おうと第一ボタンまでキッチリ閉じているシャツを開けて後ろを向いた。 黒色のベルベットから垂れるシルバーの十字架が目の前を通り過ぎ、解放された首元にあてがわれ、後ろ首でチョーカーの留め具を閉じられて「苦しくないか」と聞かれ「大丈夫」と答えた。 首に回るベルベット生地の感触は柔らかく苦しくはない、女性物のはずなのに少し緩いくらいだった。 鏡があれば状態が確認出来るのに首にピッタリしているのでシルバーの十字架しか見えない。 自分ではどうなのかは分からないから、遼太に見て貰おうと振り向いた。 遼太の口から「いいんじゃね」「かわいいよ」とか語彙力が足りないような誉め言葉、俺は俺で男なのに女物のチョーカー付けて何をしているんだろうと自分の行動に疑問を感じる。 遼太と向いあったまま、すごく気まずい。プレゼントをもらった時はどういう態度が正しいのか…。 風がザワザワと背の高い草を揺らし、少し寒くなってきた。 ピピピピピ… ポケットのスマホからアラーム音が鳴りだして止めた。 時刻は夕方の6時30分、7時には家に居ないと母親の機嫌が悪くなるから、帰るのが遅くならないように昨日セットした。 「帰る時間になった、今日は遼太ありがとう。」 「ああ、また明日な。」 遊歩道から階段を登り、土手の上に停めてある自転車へ向かった。 先を歩く遼太の後ろ姿を見ながら、首輪を付けて貰えば遼太にもっと明るく優しく出来るのではないかと期待していたが意外にそうでもない。 階段を登る遼太の手が目に入り、手に触れるとすごく驚かれ「ホントにどうしたの?」と心配そうに聞かれる。 どうしたもなにも遼太の事が好きで触ってもいいかなと思っただけなのだが。 自宅に戻ってチョーカーを付けた自分を鏡で見て「どうした俺!!」と一人ツッコミを入れてしまった。 遼太が困惑していたのも分かった。何かトチ狂ったお願いをしてしまった。 似合ってないワケでもないが、黒色のチョーカーは何かエロい。 チョーカーには『相手を束縛したい』『独占してみたい』という意味があるそうで、知らずに意味深なこともしてしまっている。 それにしても遼太も唐突で変なお願いをよくきいてくれたものだ。 チョーカーを眺めながら、久々に出会った優しくて安心できる人を大切にしたいと思った。

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