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第13話 趣味嗜好
生徒会長就任から数カ月、面倒くさいながらも良い事があった。
生徒会室の私物化に成功し、クラスの煩わしい人付き合いを減らせることが出来た。
そういうワケで昼休みは生徒会室で一人で仕事をしているフリをしながら過ごしている。
静かで快適、休日もここで過ごしたいくらいだ。
理由は家に居たくないから、もうすぐ冬休みで本当は少し嬉しいはずだけど、今はすごく憂鬱。
最近、家庭が荒れていて家に居ても心が休まらない。家に居る時間が長くなる長期休暇をどうするかをすごく悩んでいる。
荒れている原因は母の気性の荒さ。とにかく自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなる。
面と向かって嫌味は言うし、怒りの感情を隠すこともしない。自分の子供だからって何を言っても良いワケじゃないのに。
半別居している父とも、この間すごく言い争いをしていた。
物が飛び始めて止めに入ったら「大人のすることに子供が口を出すな」と叫ばれて閉口するしかなかった。
いい年の大人が感情のまま罵り合う姿は醜いし怖い。
恋愛結婚と聞いているのに、なぜあんなに仲が悪くなるのだろう?
いや、父は母ほど気性は荒くはない、母が些細なことでキレて突っかかって行って父を怒らせている。喧嘩するほど仲が良いとか言うけど、仲が良い者同士は喧嘩はしないと思う。本当に感情の激しい人と一緒に居ると心が疲弊する。
高校生ながら家庭に疲れるって、普通なのかな?
子供は親を選んで生まれて来るとかいうけど、そうだとしたらどういう趣味嗜好をしているんだろう俺は。
罵られたり嫌味を言われたりすると気持ち良いとかいう変態にしか思えない。
今日は朝から絶え間なく白い雪がふわふわと曇った空から落ちてくる。
寒いのは嫌いだけど、静かに降る雪は儚くて綺麗だ。
窓際のヒーターに手をかざし校庭に降る雪を眺めていたら「友也、居る?」と遼太が入ってきて、いつもと同じ人懐っこい笑顔を向けてきた。
そういえば俺が怒ることはあっても、遼太が怒ることはなかったような気がする。
遼太のお母さんは穏やかで優しそうな人だった、俺もそういう人に育てられていたら生徒会室に逃げ込むような人間にはならなかったかもしれない。親を選べるならもう一度選び直したいもの。
気づけば俺の横に遼太が立っていて、髪に手を伸ばしてきたから叩き落とした。
「…って、学校で触るなっ。」
「なんかボーっとしてるから、触ってもいいかなと。」
「校庭から誰かに見られるかもしれないんだから。ボーっとしているのは、家庭に疲れているからだ。」
「今日みたいな日は校庭に人なんかいないって。家庭に疲れている?相変わらず面白いコト言うな、友也は。」
「全然面白くない、ウチの家庭は本気で荒れている。それより、昼休みは生徒会室に来ないで欲しい。」
「なんで?俺も役員だし入ってもいいだろう。」
「クラスメートの相手してろよ、せっかく遼太の事が好きで群がっているんだから。」
「群がっている…、友也も混じる?俺に群がっていいよ。皆で仲良くしようよ。」
「…いい、そういうの俺には無理。」
垂れ気味の遼太の目が俺の言葉に傷ついたような色にに変わったような気がしたので視線を反らした。
…やっぱダメだな俺は、全然ダメ。
首輪を付けて急に優しくなるなんて出来なかったし。
遼太が俺を気遣って来てくれたのも分かっているのに。
俺も俺が嫌いな母親と何か似ている。モノに当たったりしないだけで、人を傷つけていることには変わりない。
「もう、ダメだ。」と遼太の別れ言葉が聞こえ、こんな気分のムラが激しいヤツなんかと付き合っても疲れるだけだし、普通の優しい人と付き合った方がいいと思っていたら、結構な勢いで正面から抱き着かれていた。
背中に腕を回されてギュウギュウ締め付けられ、頭には遼太の顔がグリグリ擦り付けられている。
これは別れの抱擁…?
別れる時って今時はハグしてから笑顔とか作って別れるものなんだろうか?
学校だけど最後だからいいかと、そのままにしていたけど長い。
長すぎるから「もう、いいだろ離せ。」と言って見上げた顔が妙にうっとりしている。
「別れるんだろ」と言うと「なんで?」と不思議そうな顔。「もう、ダメだ。」って言ったじゃないかと言うとキラキラした目で自身の趣味嗜好を話し出した。
「俺、漫画で言うと何考えてるか分からないツンツンしたキャラが好きでさっ、後、不幸で病んでるくらいが面白いよね。ついでに今日は雪降ってるじゃん、黒い髪がすごいキレイに見える。朝から触りたくて我慢してた。」
…そう言えば遼太の部屋には結構な数の漫画があった。
どうやら遼太の趣味嗜好に俺は合っているらしい。
「もう、ダメだ。」は抱き着きたいのを我慢していた?
再び抱き着かれて俺から出た言葉は「リアルでそんな人好きになったら不幸になるよ」だった。
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