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第17話 飼い主

「えっ?今、何時?」 随分ぐっすり眠ってしまって慌てて起きた。 部屋が妙に明るいし、スマホは?と辺りを探すけど、階下のリビングに置いてあるコートの中に入れっぱなしだったことに気が付いた。 最後の記憶が裸だったのに、やけに大きいパジャマが適当に着せられていて、また途中で眠ってしまったのかもしれない。 遼太は部屋に居ないし、ふかふかしたお客様用の布団の上で、どうしようかと考えていたらドアの扉が開き遼太が入ってきた。 いつもの人懐っこい笑顔で俺に挨拶をする。 「おっ、やっと起きたか、おはよう。」 「…おはよう、起こせよスマホないと起きられないし。」 「これな、うるさいから電源切っておいた。」 そう言って俺のコートに入っていたスマホを手渡された。 電源を入れたら14時4分とか表示されて驚いた。 どんだけ他人の家で爆睡しているんだ俺はっ!! スマホを見ると当然のように俺の母親から着信通知がたくさん入っている。 家出したようなものだしな、まあ、子供に家出されてもしょうがないことしてるのに心配はするんだな。 連絡を入れようと思ったけど、多分繋がった瞬間に怒鳴られるのが分かっていて憂鬱で溜息が漏れた。 俺の横で一緒にスマホを覗き込んでいる遼太が軽く言う。 「冬休みなんだし、暫くウチに居ればいいじゃん。なんならずっと居てもいいし。」 「…ずっと、って…。」 俺を憐れんでいるのか心配しているか軽く言うけど、俺は犬猫じゃないし暫く飼われますとか言えないし。まあ、俺が犬とか猫だったら遼太に飼われてもいいけど人間だからな。 嫌だけど連絡入れないといけないと思いスマホを操作していたら、横から遼太に取り上げられてしまった。 「返せよ、多分心配してるんだから。」 「帰らなくていいじゃん、ヒドいことされてんのに。」 「…機嫌が悪かっただけだよ。」 「悪くてもしないよ普通は。」 …まあ、そうだ、普通はしない。子供を自分の所有物と勘違いしているから出来る事、どうせ誰かに所有されるなら賢い人か優しい人がいい。俺の母親は飼い主として不適格だ。 早く家を出たいけど高校中退して出て行くとなると今後の人生に影響するし、高校卒業までは嫌でも折り合いをつけてやり過ごすしかない。 ムスっとして俺のスマホを後ろ手に隠している遼太に返してくれと手を向けた。 「ほら返して、帰るしかないんだから。」 「いやだ、絶対返さない。」 「いやだ、じゃないって…。」 バカなのかデカい図体で駄々をこねる遼太が全然スマホを返してくれない。 取り返そうとしている内に揉み合って遼太を布団の上に押し倒してしまったら、そのまま腕を引かれて抱き寄せられた。 「ムラムラしてる」とか言い出すんじゃないかと思い背中に回った腕を剥がそうとしていたら、不穏なことを言い出した。 「友也が女の子だったら妊娠させて嫁にするっている手もあるんだけどな…。」 「にっ…妊娠って、俺は男だからしないよ!!」 「知ってるよ、変なとこであせるな友也は。男同士がずっと一緒に居られる方法って無いのかな?」 「…友達でいればいいんじゃないの?」 「友達とはエロい事しねぇだろ?俺達は友達じゃない。」 「…そうかな?付き合ってるという関係だったよね。」 「ずっと一緒に居たいんだよなぁ、どうしたらいいんだろ?」 遼太を見ると真剣に考えている顔をしていたけど、そんなこと聞かれても俺も分からないよ。 なんかうれしいこと言ってくれてるけど…。 俺が男じゃなくって、女の子とか犬とか猫だったら多分解決するんだろうな。 お嫁さんかペットになれたらって、お嫁さんとペットを同列に考えるのは不謹慎だな。 ぐぅぅぅ… …お腹が鳴った、生きているから普通にお腹すくし、トイレも行きたいし、お風呂も入りたい。 やっぱり遼太の腹の上で転がっている場合じゃない、鬼ババに怒られても家に帰らないと。 ガッツリ背中に回っている腕を解かないと帰れないから声を荒げた。 「離せよ、遼太っ!!帰るからスマホ返せ!!」 「帰さないよ。」 「帰さないって、遼太の家族にも迷惑だし帰るよ!!」 「迷惑じゃないよ、母さんと弟は親戚の家に行ったから2.3日戻らないし全然だいじょうぶ。」 何が大丈夫なんだろう?と思っている内に俺のスマホに掛かって来た母親からの電話に遼太が勝手に出て、コミュ力高い話術で2、3日遼太の家に泊まる旨を伝えて電話を切った。 呆然とする俺の前で遼太が「よっしゃああっ!!」と声を上げて拳を握り、すくっと立ち上がると机の引き出しから、いつぞやの太い首輪と手錠を持って来た。 あんまり良い思い出も無い首輪と手錠を「久しぶりだから付けろ」みたいな顔をうれしそうにされても…。 まあ、遼太には飼われてもいいけど手錠は要らないかな? 神様が俺の願いを聞いてくれたのか、2.3日遼太に飼われることになった。

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