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第23話 ワンコ生活 2.5日目

「もう帰る用意しようかな。」 監禁じゃなくって保護されてから2日目の昼過ぎ、遼太の家族が「帰るのは明日」と言うから、横に座ってる遼太に「もう帰る用意しようかな。」と呟いたら「まだ怒っているのか」と飛びついてぎた。 炬燵テーブルの上はお菓子でいっぱいだし、整理整頓と簡単にでも掃除をするのが礼儀だと思った。 「怒ってないよ、明日帰ってくるんだろ?色々片付けようよ。」 「まだ、いいじゃん。帰るって言うなよ。」 「でも帰らないといけないし。」 「冬休み中は、ずっとウチに居ればいいじゃん。友也の家に適当に電話するからさ。」 すごく真面目に言うから嬉しかったけど、そんなこと出来るワケない。 遼太は本気で俺を冬休み中保護しようとしているのだろうか? 気持ちは嬉しいけど…と思っていたら首筋辺りを強めに吸われて、洗面所の鏡で見たら左首の横が赤くなっていた。 どうするんだよ、これ?帰さない運動の一環か? 鏡の前で、どう隠そうかと見ていると遼太がひょっこりと鏡の中に映ってきて、鏡越しに不満を伝えた。 「こういうのは、止めて欲しい。」 「なんで?別にいいじゃん。」 「なんでって…。」 なんでだろう?誰かに見つけられると困るから?誰に付けられたと言われても相手の名前を答えられないし。 遼太に「ちょっとこっち来て」と言って少し前に屈んでもらった状態で首元をガブッと噛んでみた。 いい感じの歯形が首と肩辺りについて「うわ!マジか!!」と鏡を見ながら遼太が叫んで、少し面白い。 「ははっ!遼太だって困ってるだろ!」 「いーや!全然困らないっ!」 「なんで?誰に噛まれたって聞かれたら困るだろ?」 「生徒会長に噛まれたって言うしっ!」 「噛みつく生徒会長って変だろ…。」 「じゃあ恋人に噛まれたって言う。」 「…恋人の名前聞かれたらどうするんだよ。ああ、付き合ってる女の子いっぱいいるから、遼太は歯形もキスマークが付いているくらいが普通か。」 「みんなに友也って言うしっ!」 冬場で肌寒い狭い洗面所に向かい合って立つ遼太と俺、時が止まった。 俺の前に立つ大男の部類にも入る垂れ目の男はコミュ力高く不特定多数の男女にモテている。 俺はと言えば、背も高くなく不機嫌な顔した底辺高校の生徒会長、信任投票なのに過半数ギリギリで当選した不人気者。 生徒会長と書記という繋がりはあるけど、「恋人」という繋がりは誰も想像していないはず。 遼太が俺を「恋人」とか公言したら、こんな田舎では大事件になってしまう。 SNS全盛の昨今、一瞬で拡散されて学校に行けなくなるし、隣近所にも知れ渡るのは時間の問題、母親や弟にもどんな目で見られるのか…。 付き合ってるのは間違いない、エロいことはしてるし。 でも「恋人」という概念が無かった、「好き」はあったけど。 遼太がとこまで本気なのか分からないけど俺を「恋人」と公言するのは止めて欲しい。 「恋人」と言われて嬉しいと俺が喜ぶだろうという期待が見える、可愛らしく嬉しいと飛びつく所なのだろうけど…。 「犬…、犬に噛まれたって言えば。」 「犬?なんで犬?友也は犬なのか?」 「首輪つけるの好きだから。」 「首噛む犬って、どんな危ない犬だよ。」 「かわいい犬とでも言っとけよ。」 「ぶっ!!面白いな…、逆にエロくね?」 なるべく傷つけないようにと真面目に言ったつもりなんだけど面白がられてしまった。 面白がらせるつもりはなかったけれど、遼太が笑ってるから間違った答えではなかった気がして安心していると腕を掴まれて心配そうな顔を向けてきた。 「やっぱり帰るのか?」と聞かれ「帰らないといけない。」「帰らなくてもいいじゃん」「ダメ、帰らないといけない。」と「帰るな」と「帰る」を暫く言い合った末に悲しそうな顔をされて心が痛む。 遼太が「しょうがない事か…」と呟くと「ちょっと待ってて」と言ってパタパタと2階の自室に走って行った。 一人残されて縁側に続く廊下を歩いていると結構な雪が降っていたことに気づいた。 洗面所から出た所には庭に繋がる縁側があり、大きなサッシ窓の向こうは白い雪で埋め尽くされていた。 ここに来て2日、雪はだいぶ降ったようで庭石も庭木もふんわりとした雪に包まれて、もこついている。 遼太と居た2日間は概ね幸せで心穏やかに過ごせた、全く悪くない、でも憂鬱な場所には帰らないといけない。 白い雪を見ていると、俺も白い雪になって、時が来たら消えてなくなってしまえば楽になれると考えてしまう。 消えることが出来る雪が羨ましい…。 雪に包まれた庭を眺めていたら遼太が戻ってきて、その手にあるのは黒色の首輪、「首輪つけるの好きなんだろ」と言われて装着されてしまった。 言ったには言ったけど、ガチでストレートな意味でもない。 遼太はマメな男だから俺の願いを叶えようとしているだけ。 とりあえずは、遼太の「かわいい犬」にでもなるかと飛びついたら「どうした!」と驚かれた。

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