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第31話 バレンタイン① 平穏が崩れる時
「好きです!」
久々に女子から告白という所作を見せられて困惑する俺。
俺の何かを好ましいと思われるは嬉しい。
ただ嬉しいだけで済まないのが面倒。
昼休みの生徒会室の中で一人椅子に座り、昼食を取りながら外の雪景色を眺める俺、珍しく幸せを感じている。
平穏、平穏に幸せを感じる。
インモラルに男と付き合っていて平穏はおかしいと思うが、乗り越えた。
遼太は生活必需品、心の安定の為にもいないと困る。
年末年始にかけてエロい保護生活とキツイ軟禁生活をなんとか乗り越え、通常運転の生活に戻りつつある。
遼太との交際は順調、エロいことしかしてないけど、エロも慣れた。
母親は相変わらず情緒不安定、ヒステリックなのが普通で、たまに優しいと裏がありそうで怖い、でも許容範囲内。
髪も伸びてきてX学生から卒業出来そう、ただ伸ばせば良いかなと思ってたけど、なりたい髪型を探して挑戦してみるのもいいなと思い始めるくらい前向き。
ああ、なんにもない平穏な日は素晴らしい!
ところで、そろそろ遼太が来るのかな?
彼は取り巻き達に如才なく愛想を振りまいたら、ここに来てくれる。
待っているワケでもないが、来るんだから待つ。
エサをくれる人を同じ場所で待つ野良猫って、こんな気分なのかな?
暇だけど幸せな気分、早くドアが開かないかな?
昼食を食べ終わって、椅子に座り作業テーブルに突っ伏し、ドアノブが回らないかなと見つめる俺、じっとしているから窓から入る日差しが背中を暖めて増々猫っぽい、今日は幸せな猫の気分、ちょっと眠い…。
コンコン…
暖かいので眠くなりかかっていた俺、目が閉じかかっている、ドアをノックする機能が遼太に着いていたとは驚き、驚かそうとしているのかな?
「いるよ、入れば?」
「失礼します。」
作業テーブルに突っ伏したままゴロつく俺、「失礼します。」なんてどんな趣向?
昼休みの生徒会室に入ってくるのは遼太しかいない、別に顔など上げずとも勝手に絡んでくるから、ゴロついたままでいると「あの…、会長。」という声が耳に入った。
…あれ?声が違う?
遼太じゃないと気づき、慌てて身を起こすと女の子、見覚えのある女の子。
この女の子は確か生徒会副会長、電車が走っていない僻地付近から2時間掛けて通学していると言う網元の娘。
髪を染めるのが普通なバカ学校で異色な黒髪、小じんまりとしたポニーテール、視力が悪いのか黒縁の眼鏡、大人しく真面目な風貌なのに稼業を手伝っているのか冬でも小麦色の肌、背は俺と同じくらいだったかな?
真面目と健康が入り混じっている生徒会副会長、加藤葉月と言う名前で同学年の高2、同じクラスではないけど。
底辺バカ高校の第43代生徒会は生徒会長の結城友也(俺)の独裁で、書記の三田遼太をこき使い運営してきた。
他に副会長と会計と会計監査もいるが、式典の時に生徒会役員として一緒に並ぶくらいで、特に仕事らしい仕事も与えずに必要最低限な関係だった。
それでも文化祭も体育祭も適当に乗り越えた、これから卒業する3年生を送る会とか面倒なのはあるけどサラッと乗り越える予定。
俺の前に立つ生徒会副会長は、若干不満気な表情を浮かべている。
俺の独裁が気に食わなかった?
生徒会活動に夢とか青春を求めているタイプか?
俺が逆の立場だったら、楽で良いと思うんだけど。
文句を言われるかと身構える俺に、彼女のが「あの…、これ…。」と言って差し出したのはリボンが掛かったギフトボックス、俺の誕生日でも無いのになんだろうこれは。
同じ生徒会役員だったけど、全くと言うほど彼女と関わってもいないし、業務連絡以外の会話しかしていない。
そもそもプレゼントを貰う理由がないないから聞いてみた。
「副会長、これは何ですか?」
「今日はバレンタインなので、チョコです。」
「バレンタイン…、ありがとう。」
全然気にもしていなかったバレンタイン、通りで遼太が中々現れないはず。
モテるからチョコに埋もれているのかな遼太は。
副会長は上司に義理チョコ送る感覚なのだろうか?
義理でも座って受け取るのも失礼なので、椅子から立ち上がった。
受け取ろうとしたギフトボックスを持つ彼女の手が震えている、顔を上げると彼女の健康的な小麦の肌は若干赤く染まっていて、黒縁の眼鏡の中にある瞳は俺から視線を反らしている。
意を決したかのように「あのっ!」と言い彼女の唇が開いた。
「好きです!」
告白の瞬間というのは時が止まる。
午後の暖かい日差しが差し込む生徒会室、作業テーブルを挟み向かい合うのは不機嫌不人気生徒会長の俺と、真面目と健康が入り混じっているポニーテール副会長の彼女。
久々に女の子から告白という所作を見せられて困惑する俺。
俺の何かを好ましいと思われるは嬉しい。
ただ嬉しいだけで済まないのが面倒。
俺は付き合っている男がいるし…?
義理じゃないチョコ、予想圏外から現れたダークホース、嬉しいと面倒が入り混じり、今この場で最良な言葉は何かと思考するが辿り着かない。
俺の返事を待つ副会長の視線が痛い、せっかくの平穏が崩れそうで顔を両手で抑えたくなった。
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