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第4話 礼拝堂にて

「クリスマスを前にあなた様を迎入れることが出来て大変光栄に存じます。」 男爵の失脚と共に連れ去られるようにシュミット伯爵の屋敷に来た。 着いて間もなく、髪を結いあげられ、めずらしく化粧も施された。 純白のドレスを着せられた俺は屋敷内にある礼拝堂にいる。 祭壇の豪奢な椅子に脚を組んで座るよう命じられた。 伯爵が俺の足元に膝まづき、恭しく口上述べる。 「あなた様の美しい瞳の色にちなんで、今後はブルーサファイア・ミカエル様とお呼びしたいと思います。」 何事が始まったのか分からない俺は困惑する。 俺の両隣りには伯爵の宝石達と呼ばれている少女(少年かもしれないが)が二人。 明るい緑の瞳の少女が俺に耳打ちした。 「ありがとう、アルブレヒトって言って。」 促されるままに言う。 「ありがとう、アルブレヒト。」 伯爵が目を輝かせる。 胸に手を当てて過大に喜びを表現する。 「名前を呼んで頂けるなんて光栄至極でございます。」 この男の名前だったらしい。 愛玩動物に呼び捨てにされて喜ぶ雇用主は初めて。 不気味で怖い。 「あなた様に心ばかり贈り物がございます。どうぞ受け取って下さい。」 琥珀色の瞳の少女が銀のトレイを運んできた。 中には黄金のティアラと柄の部分が金で装飾された棒状の鞭。 ティアラを付けられ鞭を持たされた。 「立っていただけますか。ブルーサファイア・ミカエル様。」 促されるままに立ち上がる。 俺を見上げた伯爵が感嘆の声を上げた。 「お美しゅうございます。お美しゅうございます。」 俺の背後には色鮮やかなステンドグラス、中央には十字架に磔られたイエス・キリストの像がある。 ステンドグラスから差し込む光が伯爵を照らす。 彼の目には俺がどう映っているのだろうか。 伯爵が芝居じみた懇願を始めた。 「私はあなた様をお迎えする為に嘘をつき人を陥れました。どうぞその鞭でこの醜い私を罰してください。」 俺の動きが止まる。 今、なんて?俺を迎入れる為に? やっとなぜこの場にいるのかが分かった。 男爵は悪魔崇拝などしていなかった。拘束されたのはこの男のせい。 彼は今どうなっているのだろうか。 拷問を受けているの姿が頭によぎる。 男爵は悪ふざけが過ぎたけど、拘束されるような罪は犯していない。 怒りで混乱する俺に緑の瞳の少女が耳元で囁く。 「早く、鞭を振るいなさい。」 雇用主に鞭を振るう愛玩動物など聞いたことがない。 戸惑う俺に少女が急かしてくる。 「大丈夫。早くしなさい。」 鞭を待っている伯爵が顔を上げた。 俺の足元には太っている禿げ上がった初老の醜い男。 焦りと期待、狂気が入り混じった瞳がじっと俺を見つめる。 気色悪いのと恐ろしさで後ずさる俺を少女が逃がさない。 低く冷たい声が耳に入った。 「あなたは人形。死にたくなかったら言うことを聞きなさい。」 鞭を持つ手を掴まれた。 鞭が上がる。 少女が強く早く言う。 「抗ってはダメ!!」 ピッシシシィイィィ… 初めて振り下ろした鞭の音は礼拝堂に長く響き渡った。

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