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第7話 練習

「ミカエル、早く脱いで。」 白いドレスの少女達の待機部屋に戻った俺は、すぐさま風呂に入れられた。 少し間を置いて、大きい浴場に次々と少女達が入ってきた。 人数が多いので異様に騒がしい。全員で入るものなのかと驚く。 暫くして気が付いた。 ……みんな、男? さっき俺の手を引いてくれたカシエルが俺の横に来た。 人好きのする笑顔を向けてくる。 「髪洗うの手伝おうか?」 整った顔、長いブラウンの巻き毛。琥珀色の瞳が光の加減で金色に輝く。 口調が男だったので少年だとは思っていたけど、ドレスを着て佇んでいた姿は全くの少女だった。 「あれ?俺が男で驚いてる?まあ、君も似たようなものじゃない。伯爵の好みに合ってるんだよね。俺達、残念ながら。」 「好み?」 「そう、少女の様に見える少年が好きらしいよ。」 男爵が俺に女装させてからかってた事を思い出した。 彼もそういう趣味だったのだろうか。 でも少し違う気がする。 それより男爵は今どうなっているのだろうか? 手が止まる俺の頭にお湯がかけられた。 「……!!」 「ほら、早くしないとレリエルねえさんに怒られるよ。」 手荒に洗われ、お風呂を後にした。 脱衣所にはテキパキと少女達(少年達?)に服を着せる緑の瞳の少女。 俺がうまく出来なくて伯爵にぶたれたレリエルねえさんとか言われてた人。 怒り口調でタオルを渡された。 「早く髪拭いて、ミカエル。カシエルもよ。」 髪を拭く俺にカシエルが小声で言う。 「レリエルねえさんだけは、この中で唯一の女の子なんだよ。」 不思議そうな顔する俺を見て続ける。 「少年ぽい女の子も好みらしいよ。伯爵は。」 よく分からない趣味に返す言葉が出なかった。 「練習をするよ、立ってミカエル。」 待機部屋に戻ってすぐ、俺の前に仁王立ちしたレリエルが怒り口調で言う。 ……練習? なんのことか分からないけど立ち上がった。 部屋中の少女達が集まって来た。 口々に話し出す。 「あっ!俺も手伝う!伯爵の役やりたい。」 「お美しゅうございますっていうの?あはは。」 「わざとらしい口上、全部覚えてる?」 「結構、暗記した。毎回似たパターンだよね。」 「泣かせるなって言ってもねぇ、俺でも気持ち悪くて泣くよ。」 「泣くのが普通だよな。何求めてんだろう、あの豚。」 「押さえつけなくても大丈夫なようになるかな?」 「クリスマスまでに絶対5回はやるよね。この茶番。」 ……クリスマスまで? ……5回?……茶番? パーティで伯爵が何度も同じ茶番を繰り返して来たことを思い出した。 今日やったことをまたするなんて、とんでもない。 絶対に嫌! 逃げようとしたら腕をがっちり掴まれた。 レリエルに有無を言わせぬ迫力で告げられる。 「練習すれば出来るようになるから。」 逃げるにも逃げようがない。 やりたくなくても、やるしかない。 諦めた俺は少女達と茶番の練習をした。 少女達が言うように、この気色悪い茶番はクリスマス前までに何度も繰り返された。 泣かなくても大丈夫になったのは5回目を過ぎたあたりだったと思う。

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