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第8話 雪の女王

「もう少し顎を上げた方がいいわ。」 豪奢な衣装に着飾る俺にレリエルが指示を飛ばす。 白絹で作られたドレスが綺羅綺羅と光りを反射している。 真冬になのに美しさと優雅さを優先させている為、肩も腕も背中も首元も空いている。 極寒の時期にする格好じゃない。 繊細なレースで作られた長手袋が二の腕近くまであるのがせめてもの救い。 瞳の色と同じブルーサファイアをあしらった首飾りが装着された。 美しいけど首にあたる金の鎖が冷たい。 「もう少し背筋を伸ばして、胸を張って。」 レリエルに姿勢を正された。 寒いのが苦手な俺は無意識に身縮めていたようだ。 俺の世話を甲斐甲斐しくしてくれる緑の瞳の少女レリエルは、この伯爵が囲っている愛玩動物の中で唯一人の女の子。 2歳上だからかなのか異様にしっかりしている。 厳しくよく怒るけど筋が通っていることを言うので反発できない。 顎の辺りで切り揃えられた真っすぐな黒髪。意志の強さが見える明るい緑の瞳。 少年ぽい少女が好きという伯爵の趣味なのせいか一番髪の長さが短い。 彼女はイブニングエメラルド・レリエルと名付けられている。 「耳飾り付けるわよ。」 黄金で大振りに作られた耳飾りが重そうで顔を避けた。 絶対耳が痛くなる。俺は耳飾りの必要性が感じられない。 不機嫌が顔に出ている俺に怒ってきた。 「嫌でもつけるのよ。」 諦めて耳を差し出した。 案の定重い。何時間我慢すればいいのだろう。 「もう少し大きい方が伯爵とバランスが取れるわね。もっと踵の高い靴持って来て。」 これ以上、踵の高い靴は歩けなくなる。 首を横に振ったら、睨まれた。 「ほとんど座っているのだから我慢しなさい。」 今日は伯爵が秘密裏に開催しているパーティの日。 男爵に何度も連れていかれた愛妾同伴しての愛玩動物品評会。 シュミット伯爵の所に来てからは初めて連れていかれる。 ドーマー男爵から奪い取った俺を見せびらかす為のお披露目も兼ねている、衣装も豪華で準備も入念だ。 しかし、まったく気乗りしない。何も楽しくない。 男の俺には高価なドレスも煌びやかな装飾品もいらなし、嬉しくない。 「不機嫌が顔に出てるわよ。ミカエル。」 また、レリエルに怒られた。 白く長いローブが付けられ、繊細な装飾が施された王笏を手渡された。 王笏は重いし、ローブが長くて歩きづらい。 「顔を上げて、笑わなくてもいいからしっかり前を見据えて、あなたは今日は雪の女王という役割なのよ。気高く美しく振舞いなさい。」 寒いし、重いし、歩きづらいし、耳も痛し、男なのに女王。 ほぼ毎晩汚れた行為しているのに気高くなんて出来ない。 汚れた行為をするよりは、まだましと自分を言い聞かせる。 早々と準備を整えていた少女達が集まって来た。 「レリエル、綺麗にできたね。素敵だよ、ミカエル。」 褒めてくれても嬉しくはなかった。 パーティの開始時刻になって皆で会場に向かう。 会場前の扉で伯爵が俺を待っていた。 俺が伯爵の望む姿になっていたようで、目を輝かせた。 俺の前に片膝を付き騎士のごとく手を差し伸べる。 「お美しい女王様、私めが貴女様を会場お連れ致します騎士でございます。どうぞお手を。」 いつもの下手な小芝居に溜息が漏れそうになった俺の耳元でレリエルが囁く。 「ありがとう、アルブレヒト私を案内しなさい、って言って。」 面倒くさい。何も楽しくない。 こんな醜い男の手なんて取りたくもない。 ここは男爵とよく来た所、あの時も楽しいとは思わなかったけど今よりは楽しかった気がした。

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